「――――真、深い微睡みより目覚めさせたは……『異なる私自身』、か」
長く伸びた黒髪、異色に染まった双眸、漆黒に染まりきった体表を除けば紫苑その人であるが、その中身は大きく替わっている。
紫苑の中に宿っていたもの、『ゼロボロス』であった。その威風にゼロボロスは小さく笑んで、声を応じた。
「よお、異なる世界の俺と回り逢えるなんてこれも数奇な運命だな」
「黙れ。お前の目的など既に理解している……私を倒し、紫苑の支配権を確固たる物にすること位はな」
そう言うや、紫苑と同じ格闘の構えを作る。ゼロボロスはまたも笑んで、拳に、全身に力を込める。
「そういうことだ。存分に、死力を持って相手になってやるよ」
「いくぞッ!」
瞬時に間合いをつめ、漆黒の鉄拳が抜き放たれる。それを迎え撃つように反射の竜鱗の鉄拳で同時に繰り出された。
「まだ、まだぁ!!」
「ッ! おおおお!!」
互いの顔に重く鋭い一撃が交差する。崩れかかる事を許さず、何度も、何度も、拳を打ち合った。
「うおおおりゃあああっ!!」
「ぐおッ……ぬおおおおお!」
決して屈する事を選ばなかった。拳の繰り出されるスピードが遅くなってもその一撃は必ず届いた。
「お、おお……おおおおおおおおお!!」
その熾烈な交わりの末、ゼロボロスは死力の一撃を込め、振り絞った。
「ッ、おおおおおおおぁぁああああ!!」
『ゼロボロス』も同様に、この一撃を最後とした拳を、繰り出した。
交差した拳と拳は掠り、一気に再び、それぞれの顔へと叩き込まれた。
「「――――――!!!!」」
打ち出した拳と拳、二人は同時に殴り飛ばされ、崩れこんだ。
すると、『ゼロボロス』の体表を染めた漆黒が次第に霧散し、完全に消えると元の紫苑へと戻っていた。
「―――っ……!」
紫苑は全身の痛みに声が出なかったが、意識は明確に取り戻した。
「はっ――は、ははは!」
ゼロボロスは倒れたままに大きく笑う。痛みなど気にせずに、大きく、高らかに。
「―――ッ!」
ハッとなって瞼を開くと、視界の光景は元居たビフロンスであった。ゆっくりと身を起こすと、ヴァイロンが声をかける。
「目覚めたか。無事か?」
「……」
体の痛みは何処もなかった。無傷――否、そのままだった。無言で戸惑う様子の彼にヴァイロンが説明する(シンメイから聞き入れた情報だが)。
「大丈夫だ、あの中で戦ったのは肉体のダメージを与えないようにした為だ。疲労感はあるだろうが…」
「……ええ。大丈夫です」
「なら良かった」
そう言ってきたのはゼロボロスだった。陽気に笑むや、
「俺がすべき事はやった。後はお前次第だ」
人差し指で胸を小突いて、身を翻した。呼び止めようとする間に彼はさっさと飛翔し、城の方角へと飛んでいった。
「勝手だろう? …アイツは」
呆れた様子で、しかし、何処か安らいだ表情に微笑を混じらせながらその後を追うようにヴァイロンは見ていた。
紫苑はそれを無言のまま、黙った。彼の居た世界にもヴァイロンはいた。彼と対の龍、世界を守る存在だった。
だが、彼女の姿はあくまで龍の姿でしか会っていない。人での姿は始めてであった。
「――まったく、妾らと置いて行くとわ…呆れた奴じゃ」
同じく呆れた表情でシンメイが呟いた。紫苑は彼女に――最も今の彼を理解しているだろう――問いかける。
「何故、こんな戦いを…」
その問いかけに、ヴァイロンの表情も険しくなりながらシンメイへ視線を向ける。
紫苑、そして、彼女の眼差しに、降参したように苦笑を零してから、答えた。
「一つは、おぬしとは言葉だけで分かり合えるなど、ましてや許されるつもりも無いと言っておったな。だからこそ、戦いの中で全てを語り、ぶつけ合ったんじゃろう。
一つは、一目見てから『気付いていた』そうじゃ。今の紫苑の『中の俺(ゼロボロス)との心の歯車が噛み合わず、ズレかかっている』と。
そのズレが自分とめぐり逢って余計に酷くなり、中のゼロボロスが復活したら大変だろう。だから、『精神体』の状態であえて『ゼロボロス』を顕現させ、撃破する――」
「……」
「あの様子なら難なく撃破したようじゃな。少しは気分が良いはずじゃろう?」
否定は出来ず、首を頷くだけで応じる。
疲労感よりも感じたのは全身に掛かっていた重みが薄らいで、身が軽くなった気分を感じるほどには『良くなった』。
「奴がここまでしたのは、あくまでも奴なりのけじめを自分につけただけじゃ。お前のために、とは心底思っておらん筈じゃ」
「……余計な、世話だ」
気強く言葉を返したのは、シンメイに対してではない。此処まで余計な世話をかけた、かけてしまった奴に対し
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