「…う、うぅっ…」
意識が戻り、ゆっくりと目を開ける。
視界の一面に映ったのは、黒い空に散らばる白だった。
「ここ、は…?」
「気が付きましたか?」
「ッ! 誰だ!?」
突然かけられた声に、少年は警戒して振り返る。
いつの間にか傍にあった焚火の向こう側に、白い衣装を纏い長い銀髪を後ろで一つに括った青年が向かい合うように座り込んでいた。
「私はウィド。あなたの名前は? どうして、こんな雪山で倒れていたんですか?」
何処か優しく語りかけるウィドに、少年は膝を抱えて黙り込む。
それでも辛抱強くウィドが言葉を待っていると、根気負けしたのがやがてポツリと口を開いた。
「……ない」
「ない?」
「無いんだよ、俺には名前が…」
そう言うと、少年は自分の身に起こった事を説明する。
自分が他者から作られたレプリカである事。別の世界で人形として記憶を書き換え利用されていた事。そして、自分を元にした被験者(オリジナル)と戦い消滅した事。
こうして自分の覚えている範囲の事を説明すると、自傷気味にウィドに笑いかけた。
「――どうだ、信じられない話だろ?」
「どうして信じないと決めるんですか?」
予想外の言葉に少年が目を見開くと、ウィドは真剣な表情でこちらを見ていた。
「あなたの目に嘘など何もなかった。だから、私はあなたの事を信じますよ」
全てを受け入れて微笑みを浮かべるウィドに、少年は複雑そうな表情を浮かべて顔を逸らす。
そんな彼に口を開くが、何と言えばいいのか分からず声を発する事はせずに口を閉ざす。
しかし、ウィドは何かを考え込むように顔を俯かせた。
「…名前とは、自分自身の証である…」
「え?」
「いえ、なんでも。そうですね…――彼であって、彼でない名を与えるには……これですかね?」
そう言うと焚火用に集めていた枝を一本拝借し、雪の上に『RIKU』と書いた。
「これを、こうして…――上手くいきませんね……試しにここに、これを付ければ――よし、これで完成です」
書いては消してを繰り返した結果、地面に書かれたのは『RUKIR』と言う文字だった。
「これは…?」
「あなたの名前を考えてみたんです。と言っても、一文字加えて並び変えただけですが…。気に入らないなら、また別の名前を考えますけど?」
困惑する少年に、ウィドは苦笑しながら小さく首を傾げる。
対して、少年は信じられないとばかりに肩を震わせる。
「なんで…俺みたいな奴にそんな事するんだ…?」
「例えあなたが何であろうと、子供だと言う事に変わりありません。そして、私は教師として働いていたんです。迷っている子供を助けるのは、教師として当然の事ですよ」
自分の信念を言い抜きながら、ウィドは少年の様子をうかがう。
彼は生まれてから利用される為だけに動いてきた。理解者はいたのだろうが、話の内容ではあまりにも接する時間は少なすぎた。だから、人から与えられる純粋な優しさに戸惑っているのだろう。どう受け止めていいのか分からないから。
ウィドは辛抱強く彼の返答を待っていると、少年がようやく口を開いた。
「この名前……本当に、貰ってもいいのか?」
未だに困惑を見せつつも初めて顔を向けた少年に、ウィドは笑いながら頷いた。
「いいんですよ。あなたの為に考えた名前なんですから」
「…ありがとう、ございます…――えっと…」
「ウィドですよ。まあ、どんな呼び方でも構いません……《ルキル》」
「…あぁ」
記憶の回想が終わり、元の場所へと戻る四人。
ルキルとウィドと初めて出会った記憶を見せられ、リクはゆっくりと隣にいる彼に声をかける。
「ウィド…こいつの名前は…」
「見ての通りですよ。あなたの…リク(RIKU)のスペルを並び替えて《R》を加えた、単調なものです」
「でも、どうして《R》なんだ? それなら他のでも――」
「例え、別の心を持っても…あなたのレプリカと言う事実は変えられない。違いますか?」
逆に問われたウィドの質問に、リクは口を閉ざしてしまう。
違う心、別の力。それらを手に入れたとしても、リクを元にして作られた以上…どう足掻いてもその部分だけは変わらない。変えられない。
そんなリクの考えが伝わったのか、ウィドは歪みがあった場所をじっと見つめた。
「それでも、あなたの人形ではない違う存在になれる。それをあの子に教えたかったんですよ」
「だから《R》を使ったんだね…リク(RIKU)=レプリカ(REPLICA)の二つの初めに付くから」
ルキルの為に考えたウィドの思惑に気づいて、シーノが笑みを浮かべる。
考えが見透かされ、ウィドは苦笑交じりに顔を背けた。
「自分でも捻りが無いとは思います
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