星も見えない真っ暗な夜。冷たい雨が一面に降り注ぐ。
原型も無い程に崩れ落ちた廃墟の中、血塗れの状態で本来とは違う服を着ていたウィドが横たわっていた。
「私……」
「頼む、動かないでくれ」
感情が抜け落ちたかのような平淡な声色に、ウィドは身体が動かないのかゆっくりと顔だけ向ける。
すると、すぐ近くで身体中傷だらけのクウが悲しげな表情で座り込んでいた。
「お前…なんの、つもりだ?」
「応急治療でごめん。俺には、これが精一杯だから」
頭を下げて謝るクウに、ウィドは目を背けるように雨が降り注いでいる黒い空を仰ぐ。
「…助けられる、筋合いはない…もう忘れたか……私は、お前を刺したんだぞ……どうせなら…あのままトドメを刺せば、よかったものを…」
「出来るかよ。お前にまで、スピカと同じ事したくない」
そこで会話は途切れ、二人の間に重苦しい沈黙が続く。
辺りに雨が降る音がしきりに響く中、しばらくしてようやくクウが口を開いた。
「なあ、ウィド。お前さ、今は何をやっているんだ?」
「お前に復讐する以外の時間は……教師を目指して、勉強に費やしてた…」
「へぇ、教師か。そう言えば、スピカの夢だったな」
「姉さんの、夢…一つでも代わりに…叶えようと思ったから」
ウィドは僅かだが、ここで初めて嬉しそうな微笑みを浮かべる。
その横でクウもまた、雨に濡れながら過去を懐かしむ様に目を細めていた。
「そっか。あとさ――」
ここで言葉を切ると、近くに転がっていた銀の細剣――シルビアを握ってウィドに見せつけた。
「この剣を持ってるって事は、スピカに勝ったのか?」
「勝ってない…渡された、だけだ…」
「じゃあ、あの約束はまだ有効か」
突然納得するような口調に、ウィドは違和感を感じたのか再度クウを見る。
すると、ウィドの見る前でクウは何の躊躇もなく自分の首元に刃を突き立てた。
「お、まえ…?」
「わりぃ…どう言う訳か、キーブレードが出せないんだ。俺の闇の力も…お前を助ける為に、使い果たして…もう、残ってないんだ…」
今まで変化のなかったクウの声が、まるで大事な何かが壊れたかのように震えている。
そう思っている間にも、クウは両手で剣を握り締めると涙を流しながらウィドへと笑顔を見せつけた。
「お前の事、スピカにちゃんと伝えておくから……じゃあな」
直後、刃を動かして一気に自分の首元を斬り裂いた。
「エ…」
ウィドが固まると同時に、まるで糸が切れたようにクウはその場に倒れ込む。
自ら命を絶つ行為を行ったクウに、何時しかウィドは全身を震わせていた。
「う、あ…あっ…!?」
「――復讐、果たせて良かったじゃないですか。僕達の手で、とはいきませんでしたけど」
激しく動揺する中、背後から声がかけられる。
泣きそうな表情でウィドが振り返ると、そこには黒縁の眼鏡をかけた長い銀髪に青い目の少年が無表情を作ってこちらを見ていた。
「ジャ、ス…!」
現れた少年の正体は、ウィドと同じように成長したジャスの姿だ。
ジャスはウィドに近づくとポケットから『エリクサー』を取り出して、そのままウィドに投げつける。
そうして傷を完治させると、すぐ傍で倒れているクウを一瞥した。
「こいつの身勝手な行動の所為で、僕達は苦しめられた。僕達に取って大切な人を、こいつは気持ちすら踏み躙って消した……当然の報いだ」
憎しげに話すと、クウへと軽く蹴りを入れる。
それでも動く素振りを見せないクウを見て、ジャスは元来た道を戻っていく。
「早くここから去りましょう。あなただって傷が治っている訳じゃない、すぐに治療を――」
今後の事を話しながらジャスが振り返った瞬間、目を疑った。
「なにを…しているんです?」
信じられないとジャスが呟く先には、何とウィドが自身の服の袖を破き、必死でクウの首元の傷を塞ごうとしていた。
「分からない…分からないけど、いやなんです…!」
まるで子供の様に首を振り、泣きながらも応急手当をする手を止めない。
「このままにしてしまったら…私は、一生後悔してしまう…! こいつの事が憎いのに、消えてしまえばいいと願って来たのに……何でか分からないけど、嫌なんですっ!」
そうやって心の内を叫ぶが、ウィド自身も混乱しているようで戸惑いを浮かべている。
だが、それでもクウを生き延びさせようと、懸命に手当して首の傷を縛り上げる。
ジャスは唖然としてその様子を見ていたが、徐に二人へ近づくとクウを肩に背負うように担いだ。
「ジャス…?」
「傷を治したばかりのあなたに負担をかけない為です。間違っても、こんな奴の為ではない」
そう言うと、クウを引き摺る形で歩き出す。
「こ
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