人・動物…さまざまな生物が暮らすのは小さな世界。だが、実際は無数の星となって存在する大きな世界。
その星々の中にある、ホンの一粒の世界。そこは平和と呼ぶにふさわしい場所だった。
訪れた村は気候は温かく自然もある。大人達は楽しそうに仕事や談笑をし、広場では子供達が遊び回っていた。
「わ〜」
「待て〜」
どうやら鬼ごっこをしているようで、一人の男の子から他の子供達が楽しそうに逃げている。
そんな微笑ましい光景の中、急に鬼役をしていた男の子がこけてその場に倒れた。
「あぅ!」
痛そうに声を上げつつも、ゆっくりと立ち上がる。
男の子の膝は転んだ際に擦り剥けてしまい、傷口からじんわりと血が滲んでいた。
「い、いたいよぉ〜!」
どうやら我慢出来なかったようで、痛さのあまり男の子は泣いてしまう。それにより周りの子供達も心配そうに近づいては顔を見合わせる。
わんわんと泣き叫ぶ男の子に困惑と不安が広がる。そんな子供達の姿を見てしまった私はほおっておけなかった。
「――大丈夫?」
子供達を掻き分けるように、泣いている男の子の傍にしゃがみ込む。
優しく頭を撫でながら傷口を見て、ポケットからハンカチを取り出す。
まだ何も知らない無拓な子供を驚かせないよう微弱に水の魔法を発動してハンカチを濡らす。それを優しく傷口に当てると、綺麗に拭きながら頭を撫でた。
「痛くない、痛くない…ね?」
ハンカチを握る手に仄かに緑色の光を宿す。癒しの魔法を放つと、膝に出来た傷は少しずつ癒えていく。
やがて完全に傷口が治るのを確認して男の子を立ち上がらせる。男の子はいつの間にか傷が治っている事に驚くも、すぐに笑顔をみせた。
「ありがと、お姉ちゃん!」
元気になった男の子を見て、つい嬉しくなって微笑んだ。
昔、故郷で離れ離れになった弟――そして鳥籠から旅立った彼を思い出したから。
これは、シルビアによって時空の干渉をされる半年前。まだ機関が存在し暗躍していた時代に起こった彼女の――スピカの物語。
ホンの短い時間過ごした世界に別れを告げ、スピカは人が通るには危険な道――闇の回廊を歩いていた。
闇で作られたこの場所は心を闇に蝕まれ、いずれは呑み込まれてしまう。だが、彼女はその身の耐性に加え高位の魔法を応用し使う事でそれを防いでいるのだ。
ある程度歩いた所で軽く振り返る。さっきまで自分がいた世界の入口は、もう見えない。
「あの世界も平和だったわね。みんな笑い合って、伸び伸びと暮らしていて――でも、いなかった」
あの温かい雰囲気を思い浮かべるが、少しだけ寂しそうに呟く。
思い描くのは、一人の人物。
「クウ…どこにいるの?」
胸元から首にかけていたロケットを取り出し、蓋を開く。中にあるのは一枚の黒い羽根。その下には大切“だった”家族の写真。
古ぼけた両親の顔に、スピカの顔が歪む。自分を罵倒する両親の声。認めないと拒絶する態度。あの中に弟の姿はなかったが、もし会ってしまえばきっと…。
これ以上思い出さないよう、握る様にロケットに蓋をする。そうして胸元に戻すと、他の世界へ行く為に歩き出した。
その時、進もうとする方角から只ならぬ気配を感じた。
「――『バニッシュ』」
即座に隠蔽の魔法を発動し、姿を眩ますように光で包みこむ。姿を隠したスピカは足音を立てない様に離れた場所に移動する。
しばらく待っていると、奥から銀色の生物――ノーバディが移動していた。
(ノーバディのダスクに…ドラグーンタイプかしら? どうして固まって回廊を――?)
スピカが思考を巡らせていると、今度はドラグーンと共に黒コートを着た大柄の男が辛そうに歩いていた。脇腹を押えている辺り、負傷しているようだ。
「く、あの男…! 邪魔をしなければ我らが同胞を連れて来れたと言うのに…!」
(黒コート…それにこの気配はノーバディ。話は聞いていたけど、まさか本当にいるなんて…)
姿を隠しながら冷静に観察していると、歩いていた男が獰猛な笑みを浮かべ出す。
「だが、あの男も野獣と同じく使える…! あの翼から感じた強い闇に強い心、上手くいけば…!」
(翼…闇、心、まさかっ!)
男の話した内容は、どれも彼の――クウの条件に当てはまる。
意外な所から飛び出した目撃情報にこうしてはいられないと、スピカは思わず男が来た方向へと走り出した。
走り出してしまった。
「っ、誰だ!」
負傷しているとはいえ他者の足音に気付き、男が六本の槍を取り出す。
そして、辺りに風が巻き上がる。
(気づかれた! 構ってる暇ないのにっ!)
心の中で悪態をつくが、この状況はつい目先の事に行ってしまった自分の責任でもあるのだ。
すぐに足を止める
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