頭を押さえ、深く深呼吸する。
剣の鍛錬でも時たまやる、精神を落ち着かせる独自の呼吸法。いつもなら少ししただけで落ち着いて効果が出るのに、ざわめく心は静まらない。
「ねえさん…ルキル…!」
リュウドラゴンを斬った時に聞こえた声。あれは確かに成長した姉の声だった。
だが、あれは姉ではない。姉を思うあまり自分が作った幻聴だろう。
そう思いたいのに…縋りたくなる。
自分を止めようとする声に。
「わたし、は…!」
そんな思いでルキルを救えると思っているのか。オパールの厳しい声が蘇る。
憎しみが揺らぐ。ダメだ。あいつは許せない存在。姉さんを見捨てた。姉さんを救えなかった。ルキルだって見捨てようと…本当に? いや、今はルキルを助けないと。そうだ、元凶の、あの人形、を…。
出来るのか? 彼と同じ人形を、私は――斬れるのか?
《出来るさ》
直後、脳裏に低い男性の声が響いた。
「え?」
周りを見回すが、記憶の歪みだけで人の姿は見えない。
《心のままに赴けばいい。何も考える必要なんてないんです》
「…だれ…?」
《今貴方が抱くべき想いは? “胸に手を当てて”思い出してみなさい》
「…て、を…」
不思議とその声に不信感は感じない。言われるままに右手を手に当てる。
黒い、底の見えない深い何かが蠢いている。それが一つになって収縮していく。
段々と胸の中心に何かが集まる。途方も無く強い力が――。
「ウィド?」
名前を呼ばれ、意識が現実に戻って我に返る。それに合わせるように集っていた何かも引いてしまった。
「シー…ノ?」
「えと、だいじょうぶ? 気分はどう?」
「…どう、にか」
気遣う様に問いかけるシーノに、思わず顔を逸らす。
今の出来事を忘れようと、思いっきり息を吸い込んで妙な感情と共に一気に吐き出した。
(今の力、何だ?)
そうして気分を変えようとするウィドに対し、シーノは内心で警戒を浮かべる。
彼の中で生まれようとした危険な力を。
もう見慣れてしまったトライライトタウンの時計台。
あのアイスを食べながら、同じようにアイスを食べて笑っているロクサスとアクセルを見て、夕日に目を向ける。
「綺麗な夕日…」
ぽつりと漏れた呟きのように、時計塔から見渡せる街が――目に見える景色全てが夕焼け色に染まっている。
「今までずっと見てきた同じ夕日なのに、今日は特別綺麗に見える」
そんな彼女の声は、何だか清々しく聞こえる。
だが、すぐに顔を俯かせた。
「ずっとこうやって三人でいられればいいのに…」
口にする願い。でも、辿った記憶を知った今は分かる。
それが叶わぬ願いだと。彼女はきっと分かった上で言っているのだと。
「――なあ、三人でどっか行っちゃわないか?」
「え?」
「そしたら、きっと、ずっと一緒にいられる」
思わぬロクサスの提案に考え込む。だが、すぐにまた顔を俯かせた。
「そんな事…できないよ…」
「そっか…そうだよな…」
悲しげな表情で提案を切り捨てられたからか、ロクサスも同じように俯かせる。
逆に二人の空気が暗くなる中、黙っていたアクセルが口を開く。
「大切なのは、みんなで毎日会う事じゃなくて――」
「一緒にいなくてもお互いの事を考える事だよね」
アクセルの言葉に続けるように笑いながら答えると、ジッと視線を向ける。
「ちゃんと記憶してるよ、アクセル」
「…そっか」
そう言いつつも、注がれる視線にアクセルは目を合わせる事無く夕日を見つめたままアイスを齧る。
そんなアクセルに習う様に、再び夕日を見る。
「ずっと、記憶してるよ。あたし…忘れない」
「俺も、忘れない」
ロクサスも夕日に目を向ける。何も言わず、三人は一緒に夕日を眺める。
脳裏に、記憶に焼き付けるように最後までじっと夕日を見つめていた。
「一緒にいなくても、お互いの事を考える…か」
アクセルの語った言葉に、リクは感傷深く呟く。
それはかつて、ロクサスの記憶で作った偽のトワイライトタウンでハイネが自慢げに語っていたものだ。アクセルとの思い出がああいった形で現れていたとは思いもしなかった。
垣間見た思い出に笑っていると、オパールが不思議そうにこちらに振り返った。
「リク?」
「ああ、何でもない」
「…そう」
どことなく素っ気なく返すと、すぐに顔を俯かせるオパール。
リクは声をかけようとするが先程の妙な行動を思い返し、ここはグッと堪えてハナダニャンに振り返った。
「で、次は――ん?」
視線を足元に落とすと、待っていた筈のハナダニャンがいない。
すぐに辺りを見回していると、自分達が通って来た通路の方で一声鳴いてから走り
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