一方、刃沙羅とヴァイロンの二人は彼の師である心剣士毘羯羅と対峙していた。
毘羯羅は全身を黒いスーツで身を包み、心剣たる刀を鞘で収めた状態で握り締めている。あえて抜刀しないのは距離があるからか。
「居合いってわかるか」
「? 間合いをつめて、繰り出す剣術の一つだろう?」
「そうさ。師匠は居合いを主にした戦いが得意だ―――お前は踏み込まないほうがいい」
「何を―――っ!?」
すると、毘羯羅は低い姿勢をとり、地面を蹴り飛ばした。一直線に迫るそれはミサイルのように、槍の様に穿ってくる。
構えるヴァイロンを押し飛ばして、刃沙羅は斬馬刀を高く振り上げ、すかさず振り払った。
「なっ!?」
一瞬の内に彼の背後に佇み、刀を再び鞘に納めた毘羯羅のスピードに彼女はついていけなかった。それと同時に刃沙羅の屈強な身体に袈裟にかけて奔った斬撃。
「っぉっらあああああああああ!!」
吹き出た鮮血に構わず、身を翻し、渾身のたたきつけを繰り出した。繰り出された一撃は大地を穿つように粉々に粉砕した
「ちっ」
すかさず斬馬刀を振り上げて、構えなおした。一方の毘羯羅は二人の前に風が吹いたように急に姿を晒した。
「……分かったか、あれが師匠の居合いだ」
「唯の居合いじゃない……」
ヴァイロンの頬に伝ってきた生暖かい血。毘羯羅はたたきつけた一撃をかわし、『無防備に構えているヴァイロン』の頬に軽い切傷を見舞いしたのだ。
それに極論、厄介なのはあの異様な速さだ。悉く刃沙羅の鬼神の如き一刀をすり抜けるように躱し、居合いの斬撃を与える。
「名前は『瞬刃』。シンプルだが、見合った名前だ」
感嘆するような、懐かしげに笑った刃沙羅だが、直ぐに笑みを閉ざし、真剣そのものになる。
「見ての通り、今の俺だと攻撃を与えられないまま倒れる」
「分かってるわ、そんなの。……一人でよく挑んだわね」
刃沙羅は返す言葉を出さないまま、毘羯羅に斬りかかった。繰り出す技はどれも一刀の元に斬り伏せる荒業。
しかし、毘羯羅は居合いの構えから抜刀して、真正面から刃沙羅の一刀に挑んだ。激しい金属音が激突しあうように、二人の剣は火花をちらす。
「おいこら、師匠! 目ぇ覚めてる癖に口開けよ!!」
「……」
ゆっくりと押し出し始めた刃沙羅。それを必死に刃で受け止め、引きとめようとしている毘羯羅。
そんな姿にヴァイロンは困惑している。
(何故、今の一撃を居合いで切り返さなかった?)
胸中、不自然に想った。
あの一撃をさっきのように優美にかわし、居合いの範囲に収まっている彼を斬りつけることが出来た―――はず。
更に今、刃沙羅が口走った言葉「目ぇ覚めてる癖に」と。洗脳されたものに意識は残っているのか。ヴァイロンは愕然と立ったまま刃沙羅と毘羯羅の一騎討ち、双方の心剣の激突を見つめていた。
「おら、何か言えよ!!」
「……耳障りだ、刃沙羅」
急に毘羯羅は刀を下ろした。それは渾身の一振りを通してしまう―――とヴァイロンは想った。
だが、刃沙羅は振り下ろすというよりたたきつけるようにバランスを崩した。
(まさか)
「ちっ!」
刃沙羅は奥手の拳による体術で空を震わせるほどの一撃を打ち出す。毘羯羅は少し身体を逸らして躱した。
そして、藍色の切先が刃沙羅の喉元に迫るが、寸での元に静止した。
「……」
息を呑む沈黙が周囲に漂う。刃沙羅は不意に唾を飲んだ。
ごくっという音が聞こえ、ゆっくりと切先を下ろした。怪訝に見つめるヴァイロン、静かに見つめる刃沙羅、そして、柄頭を自身の仮面に向け、一気に突き出した。
「!!」
「―――」
音を立てて壊れる仮面。崩れ落ちる欠片の下から大小無数の傷を顔に走らせた妙齢の女性が刃沙羅を見た。
「―――少しは小振りな心剣でも抜けよ、刃沙羅」
仮面は全て崩れたわけではない。まだ右半分少しの仮面が亀裂を奔っていながらも残っている。
鋭い眼差しには光が宿っていない。虚ろな目。小さく笑った毘羯羅は続けていった。
「まだ洗脳は解けない。自力で仮面を攻撃できたのは私くらい……直ぐに洗脳が強化される」
「心配するなよ、俺に任せろ。『一発で終わる』」
「……頼んだぞ、私にお前の骸を晒さないでくれ」
強く頷き返した刃沙羅に、毘羯羅は虚ろな瞳に光を奔って笑った。その刹那、壊れた仮面が再生され、彼女の顔を覆い尽くした。
そして、下ろした刀を再び刃沙羅の喉元へと瞬刃の一突きを突き上げた。
「―――」
刃沙羅は左手で切先を止めきった。止めた手の内から夥しい血が垂れ流してきた。だが、構わずに刃沙羅は斬馬刀を手放し、右手に渾身の一擲を打ち出した。
鋭く突き出した右ストレートの剛拳。為す術のな
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