人形による干渉も無くなり、平穏を取り戻した夢の世界。
 夢の持ち主であるルキルは時計台に腰を掛け、夕日を眺めていた。既に夢に侵入していた四人の姿は何処にもない。
 そのまま隣に目を向けると、ハナダニャンが夕日を見ながら座っている。
 もう一度夕日を見てから、再び隣に視線を送る。その一瞬で、ハナダニャンは黒コートを纏った黒髪の少女――シオンへと姿を変えた。
「行っちゃったね」
「…ああ」
 元の姿に戻ったシオンに軽く返事を返し、ルキルは夕日に視線を戻す。
 この場所は彼女が作り出した幻影だ。自分にこの風景の記憶はない。
 記憶で作られた贋物の筈なのに…本物に思えるのは彼女が『特別』だからだろうか。
「良い所だな、ここは」
「うん。ロクサスとアクセルとあたしの、思い出の場所なの」
「そうか」
 助けて貰った恩人なのに、何故か素っ気なく返してしまう。だが、ルキルの態度を気にしてないのかシオンは微笑んだまま夕日を眺めている。
 このままじゃいけないと思い、ルキルはどうにか話題を口にした。
「シオン、って言うんだな。お前の名前」
「機関から貰った名前だけどね」
「それでも、お前は幸せだよ。俺は名前すらも与えてくれなかったし…お前のように、友達や親友を作る事も出来なかった。人形として、ずっと利用されていた…」
 同じ製作者の元作られたレプリカの筈なのに、力も、能力も、思い出さえも彼女よりずっと劣っている。そんな彼女が羨ましくて、眩しくて…嫉妬心を抱いてしまう。
 複雑な思いも込めて言葉をぶつけるが、シオンは微笑みを崩さすに振り返った。
「それはあたしも一緒だよ? サイクスにはずっと人形として見られていたし、望んでもいないのにロクサスの力奪い取って…――最後にはゼムナスに利用されて、ロクサスと戦わされたから…」
「シオン…」
 思わずルキルも振り向くと、シオンは悲しそうに俯き胸を押え出した。
「あたしが自分の正体知った後、ロクサス達と一緒にいれたらいいのにって願ってた。どっちかしか存在出来ない未来よりも、ここで三人と一緒に笑い合える未来が欲しかった…」
 そう言って、また夕日に目を向ける。
 凛とした真っ直ぐな瞳、内に秘める強い意思。彼女はナミネやカイリと同じ顔なのに――何故か思い浮かべるのは“あいつ”の顔。だが、それも当然だろう。彼女は――ソラの記憶を元に作られた存在なのだから。
 これ以上何も言えずに黙っていると、突然シオンが顔を覗き込んで笑いかけた。
「だから、あなたに全部あげる! あたしの思い…あなたなら、叶えてくれるって信じてるから!」
 笑顔で告げたシオンの言葉に反し、ルキルは顔に戸惑いを浮かべてしまう。
「…本当に、いいのか?」
「あたしは、人形に残ってたシオンの『思い』だよ? ソラが目覚めてるって事は、ロクサスも本当のあたしも元の場所に還ってる。それに…――あたしは、“ソラ”だから」
「確かにあいつが今のお前だったら、同じ事言いかねないな」
「こうして誰かの力になれるんだもん。当然だよ」
 どんな時でも友達を大切にするソラを思い出しながらシオンが笑う一方で、ルキルは友達の為ならどんな危ない行動も厭わないソラが脳裏に浮かんでしまい呆れた表情を浮かべたままだ。
 同じ人物を考えているのに真逆の感情を抱く二人。とここで、シオンが笑みを消して胸に手を当てる。
 そこにあるモノを探るように。
「ねえ、ルキル…私達、本当に心は無いのかな? あたしはシオンの思いだけど…分からないよ」
「さあな。でも…」
 口を閉ざし、忘却の城での会話が過る。
 マールーシャを倒し、ナミネ達の元から去ろうとした。その時に交わしたソラの言葉が。
「ソラは言ってくれた。人形とか関係ない。ここにいる俺達は、俺達だけの心を、記憶を持っているって。あいつがそう言うのなら…俺達は、もしかしたら心を持っているかもしれないな」
「ソラ…!」
 ソラの言葉を伝えると、シオンが手で顔を覆う。その隙間から涙が一粒伝っていた。
 自分はソラと出会えたが、彼女は違う。寧ろソラを目覚めさせない存在だった。もし会えていたら…何かが変わったのかもしれない。最後まで受け入れず変わらなかった俺と違って。
 ルキルは立ち上がると、シオンの肩に触れる。この意図が伝わったのか、すぐにシオンは顔から手を外して立ち上がる。こうして二人が真剣な表情で向かい合うと、ルキルが肩を掴んだ。
「シオン…お前の思い、無駄にしない。必ず、あいつらを守って見せる」
「――うん、信じてる」
 そうして見せたシオンの微笑みは儚げで――ナミネによく似ていた。
 ルキルは空いた右手に闇を纏い、ソウルイーターを取り出す。
 ナミネを守る。ロクサスを守る。理
	
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