ビフロンス城の夜はまだ続く。
食事を終え、それぞれが自由に行動する。再び自己鍛錬に集中するもの、責務を勤める誰かの手伝いを続けるもの、
誰かの傍に寄り添うもの、気楽に息抜きをするもの――人それぞれだ。
場面を移ろう。場内に設備された浴場。地上1階層目に設備されたそこは男女それぞれ広い。
「――やはり鍛錬の後の湯は良いものだな」
身を湯に浸かり、無轟はいつになく喜色のある声で言う。
「そうだな、疲れも吹き飛ぶあなあ」
同じく湯に浸かっているのは神月で、同じく満足げにしている。
そんな我が子の様子を呵呵と神無が笑った。
「はっは。こうして揃って入るのも悪くないなあ」
「それ、何度目の台詞なんだか」
笑う神無に、呆れたようにオルガが呟く。
「まっ、いいんじゃない?」
釣られて菜月も同意して、にこやかに笑みを浮かべる。
そんな和気藹々とする中で巌のように、不動のごとく湯に浸かる男――ビラコチャが口を開く。
「お前たちはいつも賑やかだな」
「ん? 羨ましいかい?」
「フフ、そうかもな」
陽気に神無の問いかけに、ビラコチャは静かに頷く。
最初は半神との交流は上手く捗らなかった。しかし、少しずつ絆は紡がれていった。
巌のようなビラコチャと気楽に雑談する神無がいい例であった。
「……少し、みんなに尋ねておこうと思う事が在った。いいか?」
そうした中で、無轟が徐に口を開く。
言葉に漂う雰囲気に物々しさを感じたこの場の一同は無言の肯定をする。
些か重々しくしてしまったと苦笑を内心するも、これからの問いかけを思えば、と構わず続けた。
「悪いな。―――問いたいのは一つだけだ。エンのことをお前たちはどう思う?」
一瞬、その問いかけの意味を理解する事を問われた誰もが忘れた。
呆然に支配されたものたちの中で最初に気づいたのは、
「どうした、突然」
半神ビラコチャだった。
この場においては誰よりも無轟と関わりが薄い者だからこそ、問いかけをした彼に戸惑う間も無かったかもしれない。
彼が口火を切った事で神無もハッとなって慌てた様子で口を開く。
「おい、一先ずなんでそんなこと聞いたんだよ?」
「ふぅービックリすぎて、オイラ…無轟さんの体にある傷を数えてたぜ…」
張り詰めた空気に宥めようとした菜月のジョークは他所に、問いかけた本人は話を続ける。
「お前たちも知っているだろう? エンが『こうなってしまった経緯』を」
そう言われるとまたも神無たちは言葉を詰まらせた。
ただし、ビラコチャを除いて。
「ああ。だが―――………『それがどうした』、だ」
ビラコチャの即答。その不動のような姿勢、言葉と目に色が宿る。静かに、されど苛烈な怒りと殺意だった。
他でもない彼は同胞とも言える2柱―――アバタールとディザイア―――を喪った。
そこに、何らかの悲劇、経緯、過去を明かされた所で、知ったことではないである。
その答えを無轟は無言のまま頷いただけ。
「では、神無―――お前たちはどう思った?」
視線は神無やオルガたちに向ける。答えに詰まっている他を置いて神無が口を開いた。
「……確かに、アイツがそうなってしまった経緯は聞いた。
もし、俺がアイツの立場ならきっと………同じ道を選んでいたかも知れない」
「……」
その言葉に息子の神月は、黙したまま不安を殺した眼差しを父を見る。
奇しくもエンと神無は似た立場を有していた。そう、愛する妻と我が子ら。
そんな息子の眼差しを、父は真っ直ぐと見つめ返して頷き返す。
「―――だが、それでも俺はアイツを許容はしない」
発した言葉に泰然と、神無は答える。
「それは何をもって許容しないのだ?」
答えた言葉に、無轟は更に問い詰めるように言う。
神無は少し間をおいて、答えた。
「…『正しい』だ、『間違っている』だ、は違う。―――それは、エンには関係ないからだ」
例え、『それ』を説いた所で、彼は『やるしかない』のだ。
『それ』は言葉でも、法でも、道徳でも、倫理でも、常識でも、彼を止める楔にはならない。
『なぜ、自分が喪ってもいない連中を、配慮しなければならないのか』。
例え、彼があらゆる方法を模索した末に出た行動だとしても。
「―――俺はアイツの祈りを、悲願を、想いを、全てを叩きつぶす。―――そのつもりだ」
神無はそう断じた。誰にだって譲れぬものは、大小無数に存在するだろう。
自分にも、他人にも、仲間にも、クウたちにも、半神にも、イリアドゥスにも、カルマにも、エンにも、彼らに付き従うものたちも、全てがそうであるように。
『譲れぬなにか』が在るから因って立つのだと。
残された道は、『ありの
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