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CROSS CAPTURE78 「恋人と弟の対話」

「ふん…!」

「…つぅ…!」

 騒ぎが収まり、再び静寂に包まれた大浴場。先程同様に湯に浸かりながらウィドは腕を組んでいた。
 その隣では、桶で顔面を叩かれたクウが赤く染まった頬を押えながら湯に浸っている。

(どうにか怒りは沈めてくれたが…すっげー、気まずい空気だな)

 同じ風呂に入り、隣で座っているが、不機嫌全開でウィドは目を合わせまいとそっぽを向いている。女として間違えられた上にナンパしたのだから当然だろう。
 しかし、クウが気まずく感じる原因はそれだけではない。

(にしても…こいつ、何で俺と一緒に風呂入ってるんだ? あれだけ殺気向けていたはずなのに…)

 シスコンによって愛情が憎悪と変わり、その感情は恋人であった自分に常に向けられていた。そんな相手と、どうして肩を並べて同じ風呂に入れるのだろうか? 関わりが、好意があると言うだけでシャオを見捨てようとしていたくらいなのに。
 今が丸腰だからだろうか。反省して許してくれたから。この風呂に何か凄い効能でもあるのだろうか。
 本人に話す勇気など湧かず、クウは一人で黙々と考えていた。

「クウ」

 その所為で、ウィドの呼びかけに瞬時に反応する事が出来なかった。

「え!? あ…その…?」

「――言い訳したくないので、単刀直入に言います」

 狼狽えるクウを余所に、ウィドは背中まで向けてしまう。
 後ろを見せるウィドの姿は、何処となく拒絶感が漂う。

「私は、あなたが嫌いです。姉さんの恋人でありながら捨てて、どちらかを天秤にかけたら世界を選び、敵であるあなたは姉さんを攫って道具に使っている」

 つらつらと口から吐き出される本心。それはクウが起こしてきた事実なだけに、何も言えず俯いて耐える。

「それで何ですか? 敵となった姉さんを助ける? 世界を破滅させようとする存在であるシルビアを取り戻す? 圧倒的な強さを持つエンを倒して世界を救う? あなた、本当に馬鹿ですか?」

「それは…」

 思わず口を開くものの、それ以上の言葉がクウには浮かばない。
 完全に黙り込むと、ウィドは「はあぁ…」と浴場全体に響くほどの呆れた溜息を吐いた。

「こんな馬鹿を…――何で、姉さんが好きになったのか少し分かりました」

「悪かっ……エッ?」

 反論の途中でウィドの言葉の意味を認識し、反射的に顔を上げるクウ。
 すると、ウィドは浴槽の底に手を付けて一気に振り返る。ようやく身体を、顔を向い合せると少しだけ唇を尖らせて宣言した。



「だから、あなたを憎むのは止めます。その代わり、あなたを嫌いますから」



「それって、えっと…?」

「保留、ですよ。そこまで宣言して姉さんを助けられなかったら…その時は命で清算して貰いますから。いいですね?」

 やはり完全に許す気はないようで、ジト目になりながら出来なかった時の補足を述べる。
 それでも、最後に会話した時よりも遥かに成長したウィドの様子を目の当たりにし、クウは信じられない思いで一杯だった。

「何で、そんなに物分り良くなったんだよ…?」

 クウがようやく疑問を吐き出すと、ウィドは視線を下に向ける。
 そうして思い出すのは、夢の世界でのリク達の会合。

「――あの子達に教えられましたからね、大切な事。だから、冷静に物事を考える事が出来ている。それだけです」

 夢の世界でぶちまけたクウに対する本音は言わない。だが、嘘を吐いたつもりも無い。
 クウに対する嫉妬心、自分の無力感。それらの心の闇をルキルが、皆が払ってくれた。仲間を思う彼らの思いを、そして自分を見つめ直す為にも、今まで拒絶していたクウと向かい合おうと決心が付いた。まさかこんな形で向かい合うなんて夢にも思わなかったが。

「そっ、か…」

 何やら納得したようにクウは頷き、横を向いて座り直す。ウィドも同じように座り直し、二人は肩を並べる形となる。
 どちらとも話す訳でもなく、大浴場に沈黙が過る。不意にクウがウィドを見ると、脇腹の方に大きな傷痕があるのに気付いた。

「その傷痕…」

「さすがに覚えがあるようですね。まあ、なかったらなかったで殴ってましたけど」

 棘を込めて言うウィドに、クウは顔を俯かせる。
 この世界に来る前に起こした、スピカを賭けたウィドとの決闘。自分を庇って胸を貫かれたレイアを見て逆上してしまい、激しい衝動のままにウィドの剣を奪い――その身を斬り裂いた。
 その時の記憶はないが、この手は確かに覚えているようで微かに震えている。服で隠されていた傷痕にクウは頭を下げたまま謝った。

「悪い…傷痕、残して」

「別に。こんな傷痕、治そうと思えば治すように頼めますから」

「へ?」

 意外な返答を口にし、思わずクウが顔を上げる。
 すると、ウィドは肩を竦めるなり
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