「…どうした、ヴァイ」
それはビフロンスへと到着し、様々な仲間たちと合流した夜の事だった。
あの時は聖域レプセキアの奪還戦の前夜だ。当然、ヴァイは緊張していた。
張り詰めた緊張を解こうと場内にあった庭園に散歩していた所を凛那が見かけて、彼女に歩み寄って問いかける。
「あはは……ちょっとね」
彼女らしからぬ陽気に混じった苦みの含んだ笑顔に、不思議に思う凛那は首を傾げつつ、じっと見つめる。
その眼差しにばつが悪いと根負けしたのか、ヴァイは夜空を見据えながら、打ち明けることにしたのだった。
「――やっぱり世界は広いなーというか、強い人って一杯いるんだなーって……」
此処に来て抱いてしまった不安を、彼女の心の吐露を、凛那は真摯に受け止めた上で厳然と返す。
「当然の事だろう。…だが、お前はお前の意思で、戦うことを選んだことだ。
それは、お前が勇気を振り絞り、この戦いの舞台へと立ち上がった事に―――私は素晴らしく思う」
その言葉に、ヴァイは彼女へ向き合うも、返す言葉を失ってしまう。
そんな彼女に凛那は、凛とした中にある穏やかな微笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「お前はお前だ」
「……うん。やっぱり凛那は強いね」
数秒の間を経て、込められた万感の想いを拳に握りしめ、小さな頷きでヴァイは素直に言う。
そして、もう一つ秘めていた想いを打ち明かした。
「あたし、父さんやお爺ちゃん、お兄ちゃんみたいに色んな世界を旅したことがないの。
夢というか…いつか、色んな世界を旅したい。父さんたちみたいに、ね」
「悪くない夢だ」
何処か嬉しそうに凛那は率直に讃え、首肯した。
そんな彼女の賛同に喜びつつも、やはり不安の本音を漏らす。
「でも、強くない私が世界を旅できるのか……そこも不安だったりする」
「身を護る強さは当然、必要だな。――なら、お前なりに強くなればいい。
お前にはお前にしかない強さがある。……そうだな、これならどうだ」
凛那は何処か考える様に黙って、数秒後に口を開く。
「なら……その時は、私も旅に同行しようか」
「え」
「強くなったお前なら私を振るうのも悪くないし、いいだろう?」
思わぬ同道の言葉に、ヴァイは唖然としていたが、すぐに彼女らしい明るい笑顔で了承した。
「うん、そんな願っても無い事だから、あたし…強くなる!」
「その意気だ」
そうして、二人は楽しく笑い合った。いつか叶えるその夢のような願いをヴァイは胸に秘めて、心を強く決意した。
「凛那を、取り戻す」
あの時の己に、凛那の姿を思い浮かべ―――強き決意の宣言を口に、行動を熾(おこ)す。
グローブに刻まれた銀色の紋章が呼応するかのように、輝き始めた。
「……ほう」
声と共に、高まっていくヴァイの戦闘力に気づいたナハトは双鍵剣に纏った茜色の波濤を振り放つ。
だが、その波濤の斬撃は攻撃対象だった彼女の姿が消えた事で届かない。
「――!」
消えた事に理解を示す前に、ナハトは咄嗟に、身を翻す。
それは高まる戦闘力の気配を読み取り、反応した結果だ。
双剣を盾のように構え、予測した箇所へと、その強撃を受け止める事ができた。
銀色を纏った一撃は刀身に叩き込んだ――失敗に終わるも、防いだナハトは、繰り出したヴァイを視認、捕捉する。
「まだ、まだ――!」
防がれても動揺することなく、ヴァイは素早く飛び退る。引くのが一歩遅れれば、振り放たれた二つの斬撃に切り裂かれていただろう。
だが、それを上回る斬撃のスピードを銀色のオーラを纏っているヴァイは、それをたやすく可能にしていた。
驚異的な能力の上昇を理解したのか、忌々しく言葉にする。
「強化か…!」
「ええ。―――モード・アージェント、それがあたしの切り札。そして!」
再び、至近へと一瞬で踏み込み、瞬間加速で放たれた銀光纏う拳と蹴りのラッシュを防ぎきれずにナハトは呻く。
「くっ…!」
攻撃を受け止めながらも反撃と牽制を鍵双剣ではなく、自身を起点とした闇を纏った茜炎の爆発として解放した。
しかし、ヴァイは下がらずに銀色のオーラを剣のようになった纏い、手刀の一閃が奔る。
「なに!」
爆炎は、銀光る一閃によって『斬り裂かれた』。そうして炎を踏み越え、ヴァイは再び――接近する。
続けて片手へと銀光のオーラを集束収斂させ、刃は長大化し、
「銀輝舞闘刃!」
奔る銀刃の斬閃に華麗に舞うごときヴァイの猛撃に、
(――この強化、これほどか…! だが―――)
ナハトは耐え凌ぎながらも、怜悧に思考を巡らせていた。
飛躍的に強化されるものにはデメリットが間違いなく存在する。
セーフティされた強化、それらを度外視、無視した強化、
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