あの後、リズは店を出て帰路を歩いていた。その手にはスピカから貰ったチケットが握られている。
戦いでは更に強くなった。好きに暴れても文句は言われなくなった。いちいちオシャレに気を使う必要もない。
新しい自分。新しい生活。そんな世界に不満は無い。
不満は無い、筈なのに。何故心は今の空模様のようにどんよりと暗いのだろう。
「そこの御方――占いでもやっていきませんか?」
聞き覚えのあるフレーズで声をかけられ、自然と足を止める。
だが、顔を向ける事はしない。
「悪いけど、占いはこりごりなんだよ」
「折角望むものを手に入れたのに、どうしてそんな顔をするのですか?」
「望む? 好きで男になった訳じゃない」
「ですが、あなたは少なからず望んだのでしょう? 男になりたい。男になれば出来ない事も出来ると」
「ああ…そうだよ、望んだよ。俺は男の方がいいんじゃないかって」
色んな人から口煩く注意され、バカにされて、少なからず女である事を不便に思っていた。
だけど、男になってからは何も言われない。子供と言う点を除けばバカにもされない。当たり前だと思われていて、不便など感じない。
――本当に?
「でもな、それとこれとは別だ!! この結果を望んだのは俺一人だ!! 他の奴らは一切性別が逆になる事を望んじゃないない!!」
ウラノス達もスピカ達も新しい生活を満喫している風に言っていたが、本当はそうじゃない事ぐらい見抜いている。
みんな、全ての元凶である自分に気を使っている。本当はこんな結果、誰も望んじゃいない。
何度もみんなを助けようと考えた、あいつらを探そうと一人で旅に出ようとした。だけど、勝手に旅立とうとしたらロクサスに見つかって、環境を受け入れようとするみんなの思いを踏み躙る事になる。そうキツく教えられてこうしている事しかできない。
「確かにあなたの言う通り、他の人は望んではいなかった。では、あなたはどうなんですか? 望んでいたと言う割に、悲しそうに見えます…まさか、自分だけ犠牲になればいいと言う考えですか?」
「うるさい!! 俺は――私はぁ!!」
感情が爆発し、リズはその手に武器を取り出す。
そして、声をかけた占い師――元凶へと切っ先を振り下ろす。
迫る刃を、占い師は唯々眺めながら。
「届かないよ――そんなフラフラの心じゃ」
直後に、キィンと高い音と共に弾いた。
握っていたキーブレードがリズの手を離れ、後ろの地面に突き刺さる。
占い師が座ったまま腕を振り上げている。その手に握られているのは――黒い羽根。
たった一枚の、それこそ手を離れて風に舞っていきそうな儚げな物に弾かれた。
男になって強くなった筈なのに、相手は女で弱い筈なのに、こちらの武器が強いのに、どうして――?
「本当は分かってるんだろ…じゃなかったら、こんなに苦しい思いなんてしないだろ? お前だけじゃない、俺達全員さ」
呆然とするリズの前で占い師は立ち上がり、顔に纏っていた布を外す。
そうして露わになった顔は、自分探しの旅に出た筈のクウだった。
「クウ…」
予想はしてたのか、リズは驚くことはせずにただ呟く。
そんなリズに笑いかけると、クウはローブの中に手を入れてから机にある物を置く。
不思議な緑色をした小さなブロック。《ナビグミ》と呼ばれる、知らない世界に行く為のものだ。
「どうする? スピカから貰ったチケットでこのまま新しい環境を受け入れるか、こいつを使って元の性別を取り戻しに行くか――他の皆はグラッセとツバサを使って既に声をかけてある。後はお前だけだ、リズ」
そうして、クウは二つの道を提示する。
どうやら修行に出ていたグラッセも、この映画のチケットを渡したスピカも、クウとグルだったのだろう。もう一人は名前も聞いた事ないが、シャオの知り合いなのは分かった。
「一つだけ聞きたい…どうして私を連れて行かなかった?」
「そりゃお前連れて行ったら無茶するのが目に見えていたし、下手すれば全員集める前に勝手に壊滅させる際に元に戻る装置とか破壊されちゃ敵わないしな」
「…どれも否定できないわね」
「それに確認しておきたかった。少なからずお前は男になりたいって望んだんだ。それが正しいかどうかをな」
一応、自分の事を考えて猶予を与えてくれていたらしい。
これらの気遣いに、リズは大きく溜息を吐いてクウに皮肉の笑みを浮かべた。
「…あんた、本当にぶれないわね」
「そりゃお互い様、だろ?」
そう言って、クウが笑う。
女性の姿になっても男の時と変わらない、そんな笑顔を。
「ふふふ…今回も我らが裁きに悲鳴を上げていますね」
「あの、大司教様…ここの住人はいずれ性転換する生き物なので、大し
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想
TOP
掲示板一覧
ゲームリスト |
ゲーム小説掲示板
サイト案内 |
管理人Twitter
HOME