繰り返す日常。
 変わり果てた世界。
 何もかもが時間の流れの中で過ぎていき、過去になる。
 そんな世界で。
 あたしは、死んだ。
 戦闘なんてよくある事だ。
 無視する事だって出来た。
 巻き込まれないように逃げるのが正しい。
 あたしなんて、世界から見たら無力な人間に過ぎない。
 いなくなった所で、悲しむのは友人と家族だけ。
 いや…生き返る方法はちゃんとある。人間としての保証がないけど。
 だから、突っ込んだ…訳じゃない。
 だって、痛いのは嫌だし。
 血塗れとか凄く生臭いし。
 死ぬ思いだってわざわざしたくない。
 それでも――見捨てられなかった。
 見捨てちゃいけないって、叫んだんだ。
 あたしの心が…
 体の中の、“コレ”が…
 確かに刻まれた、『ウタ』が。
 ――空…あいしてるわ…
 そう呟くお前は誰だ?
 どうして俺にそんな言葉を囁く?
 俺はどうして手を震わせている?
 赤い瞳に映っているのは…誰?
 カーテンの隙間から差し込む日の光で、目を覚ます。
 寝起きはいつも通り最悪だ。
 原因? んなもん決まってる。
「うぁ…また、あの夢…」
 誰かを――一人の女性を殺す夢。少し前から、ほぼ毎日のようにそんな悪夢に魘されている。
 こっちは長年、こちら側の人間として過ごしている。他人の命を奪うなんて日常茶飯事だ。
 手を汚す際は、同情も情けもかけない。そうやって生きてきた。
 ましてや夢の中の女は見た事も記憶にもない。気に掛ける必要など、どこにもない。
 なのに、どうしてだろう。
 すごく…切ない。
「ま、所詮夢は夢。そう割り切ってるのにな…」
 まずシャワーを浴びたい。変な汗を掻いてしまったし、さっさと夢の内容を記憶の隅に追いやりたい。
 起き上がり、その場で服を脱ぐ。脱衣所で脱ぐのも面倒くさいし、この部屋には一人しかいない。
《止めさない。人前、しかも男性の前で服を脱ぐなんて常識の欠片もないですよ》
 …ああ。面倒な奴がいたんだった。
「ちっ…俺が何処で脱ごうが勝手だろ。あっち行けよ」
《なら、あなたが脱衣所に行きなさい。私だったから良かったですが、誰かがいてもそうするんですか?》
「そんな事するかよ。いいから別の所に行け」
《やれやれ…》
 キツい言葉で追い返すと、呆れながらもようやく奴は出て行った。
 奴は少し前から俺に勝手に憑りついた隣人――協力型のレネゲイドビーイングだ。
 半透明の身体をしているからか、今の所奴を認識出来るのは俺だけだ。第三者から見たら、俺は独り言を発しているように見えてしまう。
 何故か奴は夢の中にいた人物――俺に似た人物の姿をしている。
 けど、一緒じゃない。
 服は白を基調としてるし、顔付きも成長してるし…。
 何より、奴は“エン”と言う名前らしい。
「ん? 連絡か?」
 さてシャワーを浴びようと立ち上がった所で、連絡用の端末に依頼の伝達が入っている事に気づく。
 すぐにメールを開き、内容を読む。
「“裏切り者(ダブルクロス)”の始末及び、“遺産”の回収か…」
 新しい任務を確認するが、緊急ではないようだ。シャワーを浴びる時間位は持てそうだ。
 任務と一緒に届いた資料を画面に広げ、扉の向こう側にいる奴に声をかけた。
「おい、任務だ。俺がシャワー被っている間にこいつを調べておけ」
《私、物体に触れられないのですが》
「レネゲイドの能力使えばいいだろうが。おら、世界が誇るマスター様に寄生してんだから仕事しとけ」
《全く、人使いが荒い……“ドレス”は使いますか?》
「当たり前だ。調整やっとけよ」
 少し時間は掛かったが、あの夢を、不可解な感情を忘れられる。
 夢の女性に対して、情なんて湧かない。
 男ならともかく――“女”の俺が、情を湧かせるなんておかしな話だろ。
 この世界は変わってしまった。
 かつて世界を震撼させていた組織は、英雄として世界中から持て囃されて。
 かつて世界を守っていた組織は、テロ組織扱いされて世界中から恐れられて。
 理不尽と言えばそうだが、奴らはレネゲイドによる技術を人類に惜しみなく提供した。
 オーヴァードの危険性は伏せて、だ。
 世界はレネゲイドの力を得た事で、瞬く間に更なる段階に発展した。だが今の世界が諸刃の剣だと、誰も気づかない。気づかないまま、何時壊れるか分からない日々が過ぎる。
「――任務です、エージェント」
 それでもまだ、希望は潰えない。
 世界の敵だと言われても、忌み嫌われる存在に成り下がったとしても。
「聞こうか」
「FHの研究所から脱走者が出ました。現在、計画の要となる“遺産”を奪い逃走中との事です。あなたには、遺産の回収をお願いしたい」
「遺産の回収、か。脱走者はどうすればい
	
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