タルタロス。
先の戦い―――仮面の女の仲間の一人であるアバタールとその手勢―――により、町は損傷の痕を残していた。
既に修繕作業を始めている場所もある。しかし、人の気配はとても少なかった。
「…」
そんな中、タルタロスの夜の闇に染まるように黒衣を身に纏った顔にも黒い布を巻きつけた男が街中を歩いている。
彼の姿を見たものは一目で「旅人だろう」と想ったが、今は彼に構う余裕は無いし、その異質な雰囲気に近づきたくも無い。
「随分と荒れているな……」
街中の破壊された様子を一通り見た彼―――アダムは広場の長椅子に腰を下ろした。
一応、街中に居た人間から幾つか情報を得ている。突然、町を攻撃してきた人間たちが居て、応戦したと言う。
「―――此処も攻撃を受けていたとは」
此処は彼女と縁が在る場所の一つだ。足跡を消そうとしたのかと、アダムは想った。
そして、聳える二つの塔を見た彼は向かうべき場所を決めた。
「ニュクスの塔にいるかな?」
この戦いに巻き込まれた『客人』達は。
その言葉と共に、彼の姿はどこかに消えた。長椅子には黒い羽根が一つだけ残されていた。
「――神の聖域、か…」
黒いロングコートを着た男性――チェルは椅子には腰掛けずに壁に凭れるように背を預けて組んだ腕を下ろした。
「信じがたいですが、ジェミニはそういいました。『ある』と思います」
白い装束に黒い袴を着た少年――フェイトは真剣な眼差しでチェルや他の者達を見渡した。
そんな中、塔の管理人である白服の紳士服を着た青年――屍(かばね)は書庫のデータベースからその名前に記載されているであろう本があるか調べている。
「……レプセキアというのがその聖域の名前なんですね」
膨大な本のデータを調べながら、屍はフェイトに尋ねた。フェイトは先の戦いで洗脳を受けていたジェミニから情報の話を続けた。
「その場所に、ジェミニ以外の洗脳を受けた人たちもいて、『神』と呼ばれている少女もいたそうだ」
「少女?」
聖域と呼ばれる場所で、『神』の称を持つものが見目が少女というのは驚きを見せた金の髪に白い鎧と衣装を身に纏った少年――皐月が言った。
フェイトは頷き返し、話を続けた。
「『神』以外にも子にあたる『半神』もいるそうだ。神は既に眠りにつかれ、聖域にいる半神は『ほぼ』手駒にされているそうだ」
「ほぼ?」
完全ではない隙間を縫うように首を傾げて尋ねたフェイトの部下でもある白服の少女――カナリアに彼は答えた。
「一部だけ逃げられたそうだ。……そして、ジェミニを操ってまで仮面の女がやろうとした一つの目的があったそうだ」
「?」
皆はフェイトの言葉に視線を向け、その目的に疑問を抱いていた。
フェイトは一息ついてから、その目的を打ち明けた。
「――ジェミニは『永遠剣』を創らされたそうだ」
「!!?」
最も驚愕したのは永遠剣士である皐月と、最初の永遠剣士である少女アビスだった。
動揺を隠せないまま、アビスは小さく身体を震えながら言った。
「確かに…ジェミニは私と同じく永遠剣を創ることができる。でも、『創る』ことは出来ても、問題は…」
「所持する事、振るう事」
フェイトは見透かしたように答えた。
これも、ジェミニから伝えた話の一部だ。彼女のことなら、そう言うことをいうであろうと彼は言っていたが見事に的得ていた。
「……ジェミニ自身もその事には驚いていたそうだ。だが、仮面の女は永遠剣を所持することができたそうだ。
唯、持つ事はおろか、振るう事も、意のままだ―――と」
「……」
アビスは沈黙で返した。
余りにも度肝を抜かれた真実に、頭の中で整理に必死になっているからだ。
そんな彼女の様子を察して、同じ永遠剣士の皐月が尋ねた。
「なら、『捕食』も行ったのですか」
永遠剣の最大の強みの一つ『捕食』。
それは様々な力を喰らって、己の力の糧とすることができる。
「捕食の所までは見せていないらしい。だけど、後で『色々と食べてみた』と言っていたらしいから捕食はしているそうだよ。
……で、屍さんは調べ終えましたか?」
一区切りに言い切ったフェイトは調べ上げている屍に視線を向けて尋ねた。
「……その名前に該当する本は無かった」
屍は椅子に座り、机に頬杖をついている。最後に零れたため息が重い。
「仕方ないさ。『神』なんて、そんなもんだ」
落ち込む屍にチェルは歩み寄って、その肩を優しくたたいた。
「―――ん」
頬杖していた屍が突然、席を立った。
その挙動に驚く一行に、屍は戸惑いを浮かべながら言った。
「……侵入された。ここに来ている」
「なんだと? 顔見知りじゃねえだろうな」
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