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それは、何でもないありふれた特別な味

 キャンプセットで作られた少し快適なテントの中で、私は少し硬い地面に横になっていた。
 頭には毛布で作った枕。着ていたローブも今は脱いで布団代わりにしている。身体はだるく、眠気はないけど動かす気力がない。
 ただただテントの天井を見上げて時間を過ごしていると、入口から人の気配がした。

「入るぞ?」

 そう言って、あの人が入ってくる。その手には木の器が。

「長旅で体調崩してるからな。食べれそうなもの作ったんだ。食欲はあるか?」

 わざわざ私に作ってくれた。その優しさを無下にしたくなくて、頷いて起き上がる。
 あの人が傍に座って、器を差し出す。中にあったのは、卵と一緒に煮込まれたご飯――お粥だ。
 木の匙で掬い、そのまま一口食べる。瞬間、口の中に熱さが襲い掛かった。

「あつい、です」
「冷ましもしない状態で食べたら火傷するだろ!? あー、ちょっと返してくれ」

 さっと取り上げると、匙に掬ったお粥にふーふーと息をして冷ます。

「……ほら。また火傷しそうなら言ってくれ」

 口元に差し出すお粥。私は口を開けて頬張った。

「あったかい、です」
「温かい? まだ冷まさないと駄目か」

 困った顔で再びお粥を掬い、息をかけてまた冷ます。
 その間に、何だかじんわりとした温かさがお腹だけでなく、胸の辺りまで広がっていく。
 この温かさが何なのか、今の私は言葉に出来なかった――。



 料理と言う生活には欠かせない特技。得意な人、不得意な人、様々な人がいるだろう。現時点での仲間内に置いては得意と不得意の激しい差が目立つのだが。
 だからこそ、仲間内で料理の腕が上であるアクアとルキルは、中間に位置するであろう人達の料理の腕についての聞き取り調査を行う事にした。拠点であるオパールの家で出払っていない人達に質問をし、今はそこそこ出来ると言うレイアに料理に関してどうしていたかを聞いている。

「なるほどね。そんな彼と一緒で、レイアはよく食生活を耐えてきたわね」
「え、えへへ……いざとなったらお店でその日のご飯を買ったり、途中から私が作るようになったりしたので」
「まあ、自分で食べれるものを作るのが一番だしな。レイアも俺と同じ形で料理を身に着けていたんだな」

 レイアの身の内話。それは一緒に旅をしていたクウの料理の腕に関しても明らかになった。
 彼の作る料理は材料適当に切って炒めただけの雑料理か、超が付くほどの激辛料理のどっちか。旅を続ける内に料理を学んで成長していったレイアと違って、クウは進歩しなかったであろう。なので、料理は彼の好みを除けば食べれなくはないラインに位置付ける。
 アクアとルキルが心の中で料理のランク付けをしていると、レイアが思い出したように手を叩く。

「あ、でも私が体調を崩して寝込んだ時だけなんですけど、クウさんが卵を使ったお粥を作ってくれたんです。不思議とそれが美味しかったのは覚えてます」

 ニコニコと思い出話をするレイアに、ルキルが眉を顰めた。

「卵のお粥……卵粥か? まあ、病人が食べる料理ではあるし作り方も簡単だが……あいつが?」

 ルキルがアクアに目配せすると、気持ちは一緒なのか顎に指を当てて考える素振りをしていた。



「で、本人に聞きに来たって訳か? 別に、お粥を作るくらい誰でも出来るだろ」

 スピカと共にオパールの家に戻って来るなり、入口で卵粥に関して問い詰められたクウはそう答え、面倒だとばかりに目の前のアクアとルキルに対して唯一動く左手で頭を掻く。
 そんな本人とは逆に、興味が出たのかスピカも話に参加を始める。

「でもその話は初耳ね。組織にいた頃、卵粥を作った所なんて見た事ないわ」
「そりゃ怪我はあっても、誰も病気になったりはしねーだろあそこのメンツ。――とにかく、別に作り方は大したもんじゃないし、俺なんかよりも豪勢な粥くらい作れる奴はいるだろ」
「確かにその通りだけど……何か気になるのよね。料理を嗜むものの勘として」

 アクアは頬に手を当てて疑念を込めた目でクウを見る。ルキルも一緒になってジト目を浮かべる。

「お前なんで話を終わらせようとしてんだ。何か隠してないか?」
「べっ、別に! そもそも、料理でも何でもないお粥を作れる事だけでなんで根掘り葉掘り聞こうとしてんだよ!」

 とうとうクウが声を荒げると、スピカはこの話の元となったレイアへ質問を変えた。

「ちなみにクウが作ったのってどんなのだったの?」
「えっと、卵とご飯と……上に刻みネギが乗ってあるものでした」
「作るのも、和風だしと醤油と生姜で軽く味付けした物だし、大したもんじゃねーよ」
「でも、食べた時美味しかったですよ? 何だか優しい味がして」
「え!?」
「ふぇ!?」

 突然驚いたクウに、レイアも釣られてビックリする
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