アダムとゼツとの通信により、チェルたちは『ビフロンスへ向かうメンバー』を決めて、各々各地で、翌日まで寝るなり、起きていたりしている。
向かうメンバーは永遠剣士のアビス、皐月、カナリアとタルタロスからはシンク、チェル、ヘカテーとなっている。
集合地点はタルタロス中央、噴水広場。翌日に集っておいてくれ、とアダムはそう言って、ずっと噴水広場のベンチに腰掛けている。
白の装束、仮面の名残を想起する骨のような装飾物を右目元につけた少年――フェイトは一人、彼に声をかけようと一気に間合いを詰めようと『響転』で近づいた。
「!」
アダムは近づく気配を察知して、すかさず十字架を象った煌めく水色の刀を突きつけた。その切先、フェイトの喉元を捉えていた。そして、相手を見て、刀を下ろす。
「普通に声をかけてくださいよ」
「ごめんね、つい」
「……」
フェイトの捉え難い態度にアダムは沈黙で返す。と、同時に彼は十字架の刀を虚空へ納めた。
「―――隣、いいかな?」
「どうぞ」
特段、気にもしない顔で答え、フェイトは彼の隣にすっと座った。力をこめていないが、真っ直ぐ背筋を立て、アダムの顔を見ずに風景を見つめている。
アダムも同じく、まっすぐ風景を見つめている。奇妙な沈黙が数秒、続いた。
「で、何か御用ですか。先ほどのビフロンスへ向かうメンバーについてですか?」
向かうメンバーの中にはフェイト・ダンデムスターの名前は無い。
「いえ、今、僕は傷を負っているんで一緒に行っても足手纏いですよ」
ジェミニとの戦闘で腕の一つを失い、幸い、帰刃による再生能力で損失を回復したが、まだ完全に『馴染んで』いない。
再生した腕を動かしながら、フェイトはアダムに顔を向け、微笑みを浮かべた。
「貴方は旅人といえど、随分―――仮面の女、いや、カルマをご存知なのですね」
「……彼女とは何度か戦闘を交わしたことが在る。逃げの一手だからな」
「それだけ?」
「何が言いたいのかな」
「―――なら、いいです。無礼な質問、すみません」
彼は追及をやめ、頭を下げる。アダムは不機嫌になっていた眉の皺を解き、ため息をついた。
「……一つだけ答えるのなら、『旅人は自慢が好き』です」
「へえ」
「旅人は自分が持っている情報を、相手の旅人に話す。相手の旅人も同じく自分の持っている情報を話す。『情報交換』です」
「なるほど」
フェイトはにやりと嗤った。アダムとカルマの関係はその言葉通りだった。
恐らく、カルマと『情報交換』をしたらしい。
「なら、貴方は何をカルマに情報を与え、カルマから何の情報をもらったのですか?」
的確な、的を射抜くといかけに、アダムは夜空を見据えたまま、言った。
「三剣の存在、『三剣と一つの鍵で生まれる剣』を」
「三剣?」
「心剣、永遠剣、反剣―――これらを三剣と称されるもの」
「一つの鍵……さしずめ、キーブレードってやつかな」
「ご明察」
アダムは笑っていない笑みを浮かべ、頷いた。
「三剣とキーブレードによって生まれる剣……か」
それがとんでもない存在であることをフェイトは『何となく』感じ入った。アダムは、きっと自分の犯した責任を晴らそうと行動しているのであろう。
そして、この話はチェルらには伝えられていない。三剣とその存在から生まれる謎の剣の情報を隠し、ビフロンスへ向かわせ、戦わせようとしている。
フェイトの笑みはさらに深まり、アダムはその視線を逸らさずには要られなかった。
「このこと、誰かに話すのですか」
「今話せば、皆でお前は半殺しだろうさ。―――来たる時に伝えるべきだ。でも、僕にはその情報を『よこして』ほしい」
「……カルマから知った情報は、『一つだった世界』の事です」
「一つだった世界、か」
その言葉はとても単純で、とても重々しいものだった。
多くの世界が存在するこの『セカイ』に置いて、『元々一つだった世界』という認識が各世界で認識されている。ある時は、古代からの伝承、語り部などに。
「それに何か問題が?」
「一つだった世界がバラバラになった理由は知っているか」
「……いや」
「―――戦争、だそうだ」
アダムは一息ついてから、彼はカルマから得た情報を言った。
「大昔、戦争によって世界はバラバラになったそうだ」
「戦争か」
案外、今も昔も人は人なんだなとフェイトは心の中で毒づいた。そんな大昔から、カルマは生きてきていた。だが、明確な動きがつい最近だ。
「もしかして、貴方との情報交換から?」
「……恐らくは」
剣呑とした表情で、アダムは自分の犯した過ちを認めた。カルマにこの情報を与えなければきっと事件は起きずにいたのかもしれないと。
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