「―――」
一撃、それで充分。
皐月との間合いを取り、シムルグは音声高く宣言した。
「皐月、今からあたしは有りっ丈の風の刃『嵐刹』を放つ。勿論、さっきの捕食能力の渦をぶった切るまでに高めた斬撃をね。
それに耐え切るか、それを乗り越え、一撃―――あたしを斬れば貴方の勝ちよ」
「負けは……死?」
「……殺さない程度に斬りつける瞬間に操作するわよ?」
自信に満ちた笑みを浮かべ、その言葉に嘘偽り無く答えるシムルグに、皐月はうなずいて了承した。
当然、皐月は此処が彼女を納得させるポイントにあると見た。
「解りました。でも、僕は耐え切る選択はしません」
愛剣ガヴェインを虚空へ散らし、黒い砲身を具現し、狙いをシムルグへ向ける。
力を砲身、砲弾に込める皐月と視認できる程に凝縮された風の刃をタイミングよく狙い済まし、放つのを待つシムルグ。
完全沈黙から数秒。シムルグの『嵐刹』、自身の全力の込めた黒い雷の砲弾『ヴァニティ・エンド』、同時に放ち、射出した。
両者の中間点で激突し、膨大な嵐を吹きすさぶ風の刃、あふれ出す紫電を引きつれ押し込む漆黒の球体、激突も束の間、風を突きぬけ、シムルグの視界一杯に黒い球体が迫った。
「くぅっ!!」
ダメージに備え、周囲の空気を自身の周囲一点に纏い、防御の構えを取った。
その刹那、膨大な黒い球体が破裂し、奔流となって荒れ狂う。
そして、奔流が消え去り、皐月は無言のまま、見据えた。
「―――」
見据えた先には風の衣で防御をしていたシムルグが片膝をついていた。
息は強く繰り返し、負ったダメージを堪えている。
「なかなかね」
口火を切った彼女はツインテールだった髪が乱れたになっている事に気付き、整えるのも面倒と思って、さらに乱す。
そして、指が弾く音と共に、彼女を包み込むように風が巻き、一瞬で消える。大きな違いはボロボロの格好が新調された元の服と乱れた緑の長髪が流麗に靡くように治っていた。
そうして、一言。
「共に戦いましょう」
「はい…」
ほっと胸を撫で下ろす皐月ははにかんだ微笑みで応えて、礼をした。
他のメンバーと違い、チェルとアルビノーレは生い茂る心剣が変化した水晶の森から戦闘を繰り広げ始めていた。
チェルは戦闘になれば、周囲の物の損傷など気に止めない。おそらくアルカナが立ち会っていれば激高する事間違いない。
その事を知りつつ、アルビノーレも「チェルの攻撃に乗って」、透き通った紫の円錐状の穂先が特徴の大槍による突きを放った。
「っ」
「はぁああ!!」
チェルが自信の愛銃―――金の装飾を施された銃『イザナギ』で、突きの軌道を反らした。
絶妙な加減で受け流すこの回避、少しでも狂えば命取りになる。彼はこの戦闘によるブランクを一気に晴らそうと考えていた。
タルタロスでの我ながらの不甲斐なさ。協力者の破面の少女カナリアに迷惑をかけてしまった。出立する前にも彼女に厳しく、言われた事を思い返した。
「―――あんたさ、守るものができたから弱くなったんだな」
「何」
ビフロンスへ出立する前、ともに行動するカナリアに呼び出され、一目のつかない路地裏で唐突に突きつけられた言葉に思わず詰まらせた彼にかまわず彼女は言い続ける。
表情には怒りも何も無い。不安げなチェルの内心と違い、カナリアは先の戦闘での態度をただ、咎めているだけなのだ。
今後のことをふまえて、中途半端な覚悟で戦いに赴ことをやめてほしい故に。
「猫から聞いたわよ。妻、息子、此処がアンタを弱くしたって」
「!!」
猫とは間違いなく、イヴだ。
彼女とは長年の仲間であり、時に姉のようなに、母のように「見透かされている」気がしていたが、事実だったようだ。
自分の束縛が増え、死を躊躇している。それがイヴの「チェルの観察結果」だった。
「そうかもな」
気がつけば此処に何年も住み、異界(ここ)へと迷い込んだ天馬で駆ける姫ウィシャスに恋心を抱き、抱かれ、
やがては息子シンクが生まれ、戦いからも自己防衛から大切な人・ものを守ることに変わった事に納得した。
イヴもある時期を境に変わらぬ若い女性のままだ。そして、こんな自分を何も言わずに見てきていた。
「弱くなった訳か」
「そういうんじゃないと思うけどね」
カナリアははっきりと返した。
「イヴは言っていたわよ。『彼は自分が負けたら、傷ついたら』って不安を抱いている。
一回、一人だけで命がけの戦いをしたらなおるって」
「そう、だな」
よく見透かされているなと思いつつ、苦笑を浮かべる。
ビフロンスへの同行、半神たちとの挑戦に応じたのも、それが本心だった。
「お前には迷惑をかけた、その事で自分の非力を痛感
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