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第四章 三剣士編第一話「僅かな一幕 その1」


 メルサータ、無轟宅の広間にて。
 怪我人を敷いた布団は殆ど片付けられ、朝の静けさが家の中を包んでいた。

「―――はい、もう怪我は治ったわね」

 神無たちがメルサータから出立し、数日が過ぎていた。無轟宅を利用して、神月たちの治療を行っていたがついに最後の一人も完治して神無の妻であるツヴァイは笑顔で最後の一人を見た。

「ほんと、すみません…」

 最後の一人は、黒髪の青年の心剣士オルガであった。
 完治の遅れの原因はアーファの機嫌を損ねたことから生じた仕置きの怪我によるもので、事あるごとに彼女の鉄拳がお見舞いされる。
 最初のころは神月たちも心配になって面倒を見てくれたが、日にちを重ねていくとやがてツヴァイだけになってしまった。他のもの達は自己鍛錬といった具合にリハビリをしていた。

「気にしなくていいのよ」

 そんな中、最後まで面倒を見ていたツヴァイはにこやかに笑みを浮かべ、オルガの頭を子供のように撫でる。そのしぐさに、彼は思わず顔を赤らめた。

「……」

「ふふふ……」

 和やかな様子に、じっとしていられない一人を除いては。

「ぐぬぬ」

 部屋の入り口にある扉の隙間から小さく覗き込んでいるアーファ。さすがの彼女もすぐにオルガに殴り込むようなまねはしなかった。
 ひとまず、深呼吸で気持ちを落ち着かせ、いざ、広間へと自然体に入った。

「――お、オルガ」

「! アーファ!? 俺は何もしてないぞ!? ね、ツヴァイさん!!?」

「ええ」

 くすくすと慌てふためく彼に笑みを零しながら、アーファにも笑みを向けた。
 「後は任せた」という意味で、ぽんとさりげなく彼女の肩を叩き、ツヴァイは広間を出て行った。

「……怪我は治った?」

「あ、ああ」

 暫しの沈黙を吹き飛ばそうと、オルガに静かに声をかけた。変に問い詰めれば、さっき以上の困惑を見せるに違いない。そんなオルガはアーファの顔を窺いながら、答えた。
 彼の傍に座り込んだアーファは少し考えるように、間をおく。

「ど……どうした?」

 流石のオルガも彼女の様子におどおどしつつ、話しかける。

「最近、冷たい」

「あー……仕方ないね」

 オルガは悪びれもせずに、あっさりとアーファの言葉を返す。
 言われた彼女は落ち込む表情を隠そうと俯いた。妙に強情で意地っ張りななくせに自分に言われるとへこたれる彼女の姿を何度見たことか。
 何だかんだで二人は互いを理解している。オルガはため息混じりに言った。

「なあ、今から相手になってくれるか?」

「は!?」

「……リハビリ兼ねての軽い戦闘、だぞ」

「っ馬鹿!!」



 場所は同じく無轟宅の隣にある剣術道場。此処で神月たちはそれぞれ特訓をし、あるいは剣を交えている。
 今、神月は日本刀型の心剣ヴァラクトゥラを握り、眼前に構える女性―――クェーサーへ切り込む。一方のクェーサーは同じく長剣型の心剣エル・アストラルで迎え撃つ。
 あくまで『剣戟による技まで使用可能』な為、二人は剣と剣で斬りあう。

「――ふっ!!」

「っと」

 狙い済ました突きに寸ででかわし、返しの一閃を放った。
 防ぐ間もなく、神月の体に斬撃が奔る。

「くっ…!」

「そこまで」

 制止の一喝が道場内に響き、二人は剣を下ろした。
 一喝の犯人は―――黒スーツでしっかりとした出で立ち、しかし、顔には無数の傷を走らせた女傑―――毘羯羅であった。

「神月、だから言っただろ? クェーサーを侮るなと」

 毘羯羅は片笑みを浮かべて、彼に言った。
 神月は駆け寄ってきた紗那から汗ぬぐいのタオルを受け取り、顔を拭く。

「……そうだな。やっぱり強い」

 吹き終えた彼は自分の服に走った傷を見た。クェーサーはあくまでも斬撃で体を斬ったわけではない。
 何より、斬られた痛みは無かった。

「伊達にカルマに心剣士最強なんていわれてたのも見ていたら納得したわ」

 一緒に試合を見ていた紗那もうんうんと頷いた。
 クェーサーは少し照れたように顔を赤くする。

「そんなに褒めるな…」

「一緒に戦うと決めたのは、妹の為か?」

「……ええ」

 毘羯羅の問いに赤らめた顔を悩ましい困ったような顔でうなずいた。
 神月たちは此処数日の間にクェーサーの事情を知った。

「アトスを救い出す為に、カルマと戦うつもりだ。……アトスと戦う覚悟も、できている」

「―――大丈夫ですよ、クェーサーさん」

「紗那…?」

 彼女の言葉に、驚きを含んだ声で紗那を見た。
 彼女は優しく笑顔を浮かべ、彼の、神月の頬を軽くつねった。

「いっ…」

「私だって彼を救うことが出来た。刃沙羅は毘羯羅さんを…
 だから、クェーサーさんはアトスさんを救い出せますよ」

「ふ…ありがとう。
 もちろん
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