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第九話

 消えたはずの少女が目の前に現れ、二人は固まってしまう。
 そんな二人に、少女は隣にいるリズを見て話を続けた。

「彼女はあなた達と違って意識だけの存在でこの世界に引き込まれた。無事に帰すから安心して」

「生きてたのか…?」

「私達は別の場所からあなた達を見ているに過ぎない。だから、こうして再びあなた達の前に現れる事が出来るの」

 放心しながら呟くクウの質問に答えると同時に、リズは闇に包まれてその場から消える。
 クウだけでなくウラノスもそれを黙って見送ると、少女が両手を上に翳して光で作られた二つの道を作り出した。

「あなた達はここから帰れる。それぞれの世界へと混沌が導いてくれる」

「お前…どうして俺達を助けるんだ?」

 自分達を助けようとする少女に、思わずクウが疑問を口にする。
 少女はクウとウラノスに顔を向け、何処か悲しそうな表情を浮かべた。

「――“あの人”に似ているから」

 そう答えると、少女はそっと両手を胸に当てる。

「あの人は私を宿命から解き放とうとした。その為に、女神の神殿を守る騎士とも戦った。そして私との未来を望んで、過去を変えようとした――あなた達二人は、そんな“彼ら”に似ているから…だから、助けたいと思った」

「そっか…ありがとな」

 嘘偽りない少女の素直な気持ちを聞き、クウは笑いながらお礼を述べる。
 これに少女も笑みを浮かべると、ウラノスも口を開いた。

「お前、【時詠みの巫女】って話らしいが…もしそれが本当なら、俺達の未来とか視えたり出来るのか?」

 このウラノスの問いに、少女は横に首を振った。

「私達は死んでしまった存在。もう時を詠む力は残されていない…それに、未来は形を変えて変化する事もある。だから、あなた達の行く末もどうなるかは分からない」

「そうか…悪い事聞いたな」

 そう言ってウラノスは謝ると、少女はもう一度軽く首を振る。そうして役目を終えたのか、闇に包まれてその場から消えた。
 徐にウラノスはポケットに手を入れてゴソゴソと手を動かすと、一つの瓶を取り出しクウに向かって投げつけた。

「ほれ」

「っと…『エリクサー』?」

「怪我させたお詫びだ。あんたとは二度と会わない事を祈るぜ」

 居心地が悪そうにそう言うと、一つの道に向かって歩き出すウラノス。
 皮肉な別れの言葉に、クウも笑いながら憎まれ口を返した。

「それはこっちのセリフだ。じゃあな…ウラノス」

「じゃあな――クウ」

 お互いに信用しあった証として名前を呼び合うと、ウラノスは光に包まれて消えていく。
 それを見送るとクウは今も気絶しているシャオを背中に負ぶさり、同じように光の中へと足を踏み入れて元の場所へと帰っていった。



 気が付くと、ウラノスは夜の広大な砂漠に立っていた。

「戻れたようだな…」

 すぐに自分が闇に呑まれた場所だと理解するが、光の道に入ってからどうやってここまで戻って来たかは何故か覚えていなかった。
 ふと夜空を見上げると、地平線がぼんやりと明るくなっている事に気付いた。

「もうこんな時間か…リズの事、どう伝えるべきか…」

 夜が明け始めるのを見て、ウラノスは軽く腕を組む。
 少しだけウラノスは考えると、仲間達の元に戻る為の闇の回廊を作り出した。

「何がともあれ、話すとなると“あの世界”の事は隠せない――今回の件は保留にして置くか」



「ん、うぅん…」

「気が付いたか?」

 意識を回復させたシャオが声を上げると、耳元でクウに声をかけられる。
 ゆっくりと目を開けると、クウの頭と異空の回廊が視界に入る。それと同時に、温もりを感じる。
 ここでシャオは、クウの背中に負ぶさって移動している事に気付いた。

「師匠…? 師匠、大丈夫!? あの人は!? リズは!?」

「暴れるな…! お前が寝てる間に、もう何もかも解決したぞ」

「解決、って…師匠ボロボロじゃん!?」

 気を失っている間に全てが終わっていた事よりも、自分を背負ってるクウの酷い怪我に驚くシャオ。
 当然と言えば当然の反応にクウは居心地が悪くなり、シャオに顔を見せない様に表情を歪める。

「気にすんな。ビフロンスに帰ったらレイアに……は、いろいろマズいか。とにかく、テラやアクアにでも頼んで回復して貰うから」

「それならボクが回復するから! 早く降ろしてよ!」

「分かった、分かった」

 降りようと背中で動くシャオに、クウは腕の力を緩める。
 そうしてシャオが背中から降りると、ある事に気付いた。

「全然痛くない…ボク、何時の間に傷を治したんだろ?」

 雷の魔法に当たってダメージを受けただけでなく身体も痺れていたのに、今では何の異常も感じない。
 不思議に思っていると、クウがポケットに手を入れてエ
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