「何だ!? ぐうう…!」
戦闘中だが、月はその場に蹲って胸を抑え込む。
勝手に沸き立つ闘争心。これは何度も経験している。強大な敵と相対した時、何らかの作用で自身のレネゲイドが異常に騒めいた時に起こる、レネゲイドの衝動反応だ。
これまで衝動を抑え込む事に成功しているとはいえ、次も抑え込めるとは限らない。月は必死に暴走しないよう、意思を強く持って自身の衝動に抗う。
「はあ、はあ…!」
闘争による衝動が収まり、どうにか正気を保つ事に成功する。
息を整えながら立ち上がる月の前に、ある光景が映った。
「蒼空…?」
同じように衝動に襲われていたのだろう。こちらは立ったまま息を荒くしている。
だが、赤くなった瞳は異様にギラついている。宿るのはドス黒い歪んだ意思。
戦闘用人格(空)に負けず劣らず…いや、それ以上に今の蒼空は憎悪に染まり切っている。その鎌の矛先は、倒れているチルドレンに向けられている。
「止めろぉ!!!」
寸での所で庇う様に前に出て、蒼空の刃をその身に受ける。
先程の不可解な現象の所為でレネゲイドの浸蝕率もグッと上がったが、辛うじて危険域には達していない。大鎌によって大怪我を喰らうが、自動的に傷を治す。
「てめえ、何やって…ッ!?」
痛みを堪えて蒼空を見て、思わず言葉を失った。
「(よくも、やってくれたな…!!)」
蒼空も空もこちらを見ていない。後ろのチルドレンに向けて、止まる事のない憎悪を抱いている。
「(コロス…!! アイツハ、コロスゥ!!)」
獣と言うには禍々しく、殺人鬼と言うほど快楽を抱いてる訳でもなく。
例えるならば、今の彼らは…あらゆる者を敵視する程の憎悪を抱いた復讐者だ。
(これが、変異暴走って奴か…!)
レネゲイドによる衝動を、力に変えた事で得てしまう代償。
本来の衝動の暴走ならば振り回される事はあるが、レネゲイドコントロールなどの訓練を積む事である程度は理性を保つ事が可能だ。だが、今の彼にその理性は全く存在しない。衝動を使い熟す事に失敗すれば、あっという間にジャームと同等に理性が呑まれてしまう。
「ッ…蒼空、正気に戻りやがれぇ!!」
「(ウアアアアオオオオオオ!!!)」
月の言葉を無視し、蒼空はチルドレンをも巻き込む鮮血の刃を繰り出す。
流石に防ぐ手立てがなく、月もチルドレンも切り裂かれて吹っ飛ばされる。
「がぁ!?」
マストに激突して悲鳴を上げる。身体は限界を迎えて意識を沈める…が、目の前の蒼空を思い出し、気力を振り絞ってレネゲイドによる回復を無理やり奮い立たせて立ち上がった。
そして、目撃する。
「なんだよ、これ…!?」
自分達のいる甲板より上にあるデッキ。そこで、沢山の人が狂ったように暴れまわっている。
味方陣営であるUGNがFHと、UGNとUGN、そしてFHとFH。もはや敵も味方も関係なく、目に映った相手に対して見境なく戦っているのだ。
何故このような事態になっているのか分からず、月は固まっていた。
「なんだ? まだ正気を保ったオーヴァードがいたか?」
すると、上の方から男の声が投げつけられる。
見上げると、船から立ち上る炎に照らされた眼鏡をかけた男が宙に浮いている。彼は月を文字通り見下しており、右手には小さな箱が握られている。
「実に愚かだ。衝動を拒むとは」
「誰だてめえ! 一体何をしやがった!!」
黒幕と理解し、怒鳴りつける月。だが、男はどこ吹く風と言う様にクイと眼鏡を上げる。
「UGNから奪い取ったこいつを使って、オーヴァードとしての本質を開放して上げたまでだ。感謝はされど、怒る要素など何もない筈だが?」
「何がオーヴァードの本質だ!! ここにいる奴らがおかしくなったのはお前のせいだろうが!!」
「おかしい? おかしいだと? ハハハ、バカな事を言うものだな少年! 彼らがおかしいと言うのならば、君もまたおかしいと言う事になるだろう…オーヴァードとはそう言う生き物なのだからな!!」
「なに、言ってっ…!」
「オーヴァードはレネゲイドウイルスが覚醒した事により変異した存在! ならば、ウイルスが起こす衝動こそが、我らの力の源! オーヴァードとしての在り方! なのに自ら衝動を抑え込むなど愚策、そうであろう!」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!! いいから降りてきやがれぇ!!」
話が通じないと分かり、月が身を低くして戦闘態勢を取る。
いざとなれば飛び掛かろうと足に力を込めると、男は宙に浮いたまま嘲り笑う。
「オーヴァードとしての生き様も理解出来ないと見える。ならば――教えてやろう! 起動せよ、《妖鬼の荒魂》!! この愚か者にもレネゲイドの本質を与えるのだ!!」
男が天高く箱を掲げると
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