容赦なく吹き荒れる風。大地を、空を浸食しながら近づく光の境界線。
白亜の城、キャメロットに存在する王の玉座でもある塔の頂で強大な光が収まり――“彼”は絶望した。
「これが…獅子王の、力…っ!?」
彼の目の前に広がったのは、白馬に跨り、聖剣ではなく巨大な聖槍を携えて凛と立つ獅子王――アルトリア・ペンドラゴンの姿。
その手前では、攻撃の余波で吹き飛ばされたマシュとクー・フーリンが力尽きて倒れている。
(マシュの『時に煙る白亜の壁』(無敵)…クー・フーリンの『矢避けの加護』(回避)…どちらも全く効かなかったなんて…!)
マシュは傷だらけになりながら後方に撤退し、クー・フーリンは霊気消失を起こして光の粒子となって消えてしまう。実際は消えたのではなく、カルデアに戻っただけだ。そこは安心出来る。
だが、あの宝具の威力を直に喰らうのであれば、もはや対策の仕様がない。
今この場で立っているのは、アルテラただ一人。だが、彼女の体力は限界まで削り取られている。
「ッ――アルテラァ!!! 『応急手当』!!」
服装に込められた魔術礼装の力を発動させて、即座にアルテラの回復を行う。回復した量は3割ほどだが、するとしないのでは全然違う。
宝具の威力が強大な分、相手の動きが止まったのは幸いだ。だが、次はない。もう一度あの宝具を喰らったら最後、切り札を使わざる負えない。
たった一発限りの、切り札を。
(どうすればいい…どうすれば――!!)
右手の甲に刻まれた“切り札”である赤い模様――令呪を、握りしめる。使えば逆転は可能だ。何度もそうしてきた。
しかし、その逆転は一回限り。万が一女神を倒しきれなかった場合…後はもうない。
「マスター」
束ねる者として出来る限りの思考を回転させていたその時、背後から女性の声がかかる。
白い着物の上から青い羽織を掛け、刀を携えた女性――沖田総司。彼女は前に出ながら“彼”に微笑んだ。
「そう怖い顔しないでください。ここは、この沖田さんが何とかしますから」
「沖田さん…」
「大丈夫ですって。だって、私はずっとマスターと共に特異点を旅してきた、カルデア1のエースでもあるんですから。ドーンと、大船に乗ったつもりでいてください!」
絶大な相手の強さを見せつけられたにも関わらず、相変わらず明るく接するその姿に、僅かながら“彼”の心は軽くなる。
そして沖田は、獅子王の前に相対して刀を構える。
「貴様如きが、私に勝てると思っているのか?」
「女神…とは良く言ったものです。格の違いが嫌でも伝わります――正直、あなたに勝つのは無理でしょうね」
目の前の王は、サーヴァントではない。様々な事象(if)が絡み合った事で、変質した女神ロンゴミニアド――神霊となった存在だ。
特異点とは言え、今こうして世界を消去させるほどの力すら持っている。嫌でも震える手を、頬から垂れる嫌な汗を隠しきれない。それだけ魔術師の使い魔(サーヴァント)と神霊は格の違いがあるのだ。
だが――戦況が最悪な中で、彼女はほくそ笑む。
「“私一人ならば”」
沖田の後ろで、ザッと足を踏む音が鳴る。
彼女は知っている。一人ではない事を。
共にマスターと歩んできた――仲間がいる事を。
「神たるファラオの武勇を見せてやろう!」
「繁栄はそこまでだ!」
「沖田さん!」
オジマンディアス、アルテラ、マスターである“彼”が、沖田に力を与える。
(オジマンの『カリスマ』(攻撃力アップ)に『太陽神の加護』(NP増加)、アルテラの『軍略』(宝具威力)、更に魔術礼装の《瞬間強化》か!)
仲間とマスターからそれぞれ持ちうる限りのバフを貰う沖田を、女神は目を細めて分析する。
その間にも、沖田は目を閉じて精神統一を行う。
「疾く――鋭くっ!!」
『縮地』(クイック性能)を使い、更なる強化を行う沖田。
今あるだけの全力を集中的に削ぎ込み、沖田総悟は女神へと立ち向かう。
「お前が騎士としてあるのならば――私は新選組としての誠を貫く!!!」
それは、生涯に渡って貫いた想い。サーヴァントとして現界する為に必要な、人類史に刻まれた偉業の証。
今から放つ大技――《宝具》は、彼女の逸話から出来たもの。
刀を上段に構え、地を蹴る。
「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀――!」
一歩踏むごとに距離を近づけ、三歩踏もうとした所で、沖田の姿が掻き消える。
気づいた時には、女神のすぐ傍で突きの構えを取っていた。
「無明三段突き!!!」
女神の胴体に、同じ個所に三つの突きをほぼ同時に放つ。
これこそが、沖田総悟の持つ剣術『無明三段突き』。天才の剣術家と言われたからこそ出来る、彼女だけの技。
宝具を受けた傷
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想
TOP
掲示板一覧
ゲームリスト |
ゲーム小説掲示板
サイト案内 |
管理人Twitter
HOME