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弟子同士の対決(けんか)


 黒い館の広い通路から、ズカズカと大きな足音が響く。
 あの肩眼鏡を付けた男性が、ズボンのポケットに両手を突っ込んでムスッと仏頂面のまま歩いている。
 まるで、行き場のない苛立ちを吐き出すように。

「落ち着きがないねぇ。そんなに心配かい?」

 背後から投げかけられた呑気な少女の声に、男性は足を止めて振り返る。
 星も光もない、闇に包まれた風景を映し出す窓。その縁に腰かけて座っているのは、鈴のついた巫女服を着た白い髪の少女だ。
 床に届かない足をプラプラと揺らしながら笑みを浮かべる彼女に、男性はしかめっ面を浮かべる。

「…スズノヨミか。何で俺が野郎の心配しなきゃいけねーんだよ」

「嘘は止めたらどうだい? いつもなら『スズちゃん』と呼んでくれるのに、フルネームで言っている辺り心に余裕がない証拠さ。クロトスラル」

 クスクスと笑う少女――スズノヨミに、クロトスラルと呼ばれた男性は仏頂面を解かず不満げに話をする。

「んで、俺を引き留めて何の用だ? 今割と頼みを聞いたり、話をする気分じゃねーんだけど」

「それは見て分かるよ。いやぁ、中々面白い事になってるよねー。君の弟子が、裏切り者と対決する為に出て行ったんだろ? これも運命(さだめ)って奴なのかね」

「なーにが運命だ。あのバカ弟子どもが、スズちゃんの暇つぶしになれる程の事を起こすと思ってんのか?」

「バカ弟子ども? やだなぁ、あの二人を一括りにしているのかい」

 ククク、と意味ありげに笑うスズノヨミ。挑発していると分かっていても、クロトスラルの苛立ちに更に火が付いてしまう。

「…スズちゃん、それはあれか? 裏切り者となったあいつは、俺の弟子じゃないと。そう言いたいのか?」

「おいおい、クウは君の弟子じゃないだろ。元はセヴィルの弟子…その証拠に、キーブレードも継承している。そして」

 ここで笑みを更に深くして、巫女服に付けられている鈴がチリンと音を立てて鳴る。

「裏切り者となったマスターのセヴィルを倒したのは、他でもないレクトだろ?」

 クロトスラルの目が細まる。それ以上の表情は出さないが、内心では盛大に舌打ちを鳴らす。
 そうだ。レクトはたった一人でキーブレードマスターを倒した実績を持っている。例え今はその力が失われていたとしても、強敵には変わりない。
 その事をスズノヨミも分かっているのだろう。クロトスラルから目を離すと、再び闇に包まれた空に視線を移した。

「セヴィルを倒し、弟子であるクウを倒しに行く。こんな因縁と運命を感じさせる話――とても面白いじゃないか。優雅に劇場で観賞したって、文句はないだろう?」



 クウの攻撃を全て弾き返した後、四人の間に緊迫した空気が流れている。
 そんな中、先に口を開いたのは意外にもレクトだった。

「ふーん…話には聞いてたけど、随分な有様だよね」

「あ?」

「右腕の大半が封印されて動かない。その上、魔力の元の切断…とても戦える身体じゃない」

 つらつらと、まるで見下すようにクウに批評を述べる。しかし少し見ただけで症状を言い当てている分、レクトがどれだけ魔導士として精通しているのかが分かる。

「ねえ、これが君のやりたかった事? 俺達全員敵に回してまでしたかった事なの?」

 失望したと言わんばかりに言葉で攻め立てるレクト。これにはクウも何も言えずに黙り込む。
 それを見たレクトは、図星を言い当てたとばかりに更に目を細めて笑みを浮かべる。

「それとも罰が当たったのかな? 俺達の事見捨てたから、それ相当の」

「レクト!」

 我慢出来なくなったのか、途中で遮るようにスピカが悲鳴を上げる。

「あなたのそれは本心じゃないでしょ!? だって、あなたは私に」

「スーちゃんは黙っててよ」

「…っ!」

 たった一言放っただけ。けれど、庇い立てるスピカを怯ませるほどの重みが言葉の中に含まれていた。
 スピカまで何も言えなくなると、レクトはわざとらしく溜息を吐く。

「ねえ。今スーちゃんは隣にいてくれてるけど…君が俺達に何をしたか、ちゃんと自覚してる?」

「…してる。分かってる」

 それでも、クウは目を背ける事はしなかった。
 敵として対峙するレクトは、己が乗り越えるべき関門なのだと分かっているから。

「俺からも、1つ聞かせろ」

 そしてクウは、出会った当初から思っていた疑問を口にする。

「レクト。お前なんで…光の力を持ってんだ?」

 それは昔を知っているからこその疑問だった。
 レクトは本来、闇側の存在。自分達と同じように闇の力を宿している筈なのに、今の彼は膨大な光の力を持っているのだ。組織の掟に反している訳ではないが、闇の世界に居続ける以上それはありえない事だ。
 この疑問に、今度はレクトが顔を歪め
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