クインシェルの酋長、ケナードは大樹中で一番高い枝に止まり羽を閉じ、眠りにつこうとしていた。
しかし、黄色に光る目は閉じることなく、キョロキョロと何かを探るように動いていた。
そして目を閉じると一息息を吐いた。
「フォッフォ、目にも留まらぬ速さとはまさにこのことじゃな」
「あら、背後をとられているというのに随分余裕なのね。というか老人はもう寝る時間よ?」
ケナードがとまっている枝より一段下の枝にはマティアスが背後よりケナードの首を掴んでいた。
「門番も居ないから何か罠があるのかとも思ったのだけれど、とんだ期待外れだわ」
「門番が居たところでお前さんにかかればいともたやすく殺されてしまうじゃろ。わしは無駄な犠牲は出さぬ主義でな。それにわしは夜行性じゃから夜眼がきくんじゃよ?」
「……ふぅ〜ん、私が夜襲をかけにくるってこともお見通しだったって訳ね」
マティアスは気に入らないといったように眉を吊り上げるが、ケナードはなおも笑った。
「千里のフォルスを舐めるでないわ。じゃが、そういうお前さんこそ丸腰で乗り込んでくるとは大した余裕ではないか」
「私の武器が今どこにあるのかなんて貴方にとっては愚問でしょ?それに、貴方を殺すくらいなら武器なんかなくても十分だわ」
そういうとケナードを掴んでいるマティアスの手から青白い光が発光し、その光は龍の手を象ると鍵爪がケナードの首に食い込む。
「元々あいつらの監視なんてこの集落にくるための名目だったの。私の本当の目的はクインシェルの酋長であるあなたと取引をすることよ」
「取引……じゃと?」
鍵爪が食い込む若干の痛みに顔をしかめながらもケナードは復唱するように訊ねると、マティアスは頷いた。
「軍はユリスの襲撃に備えて戦力増強を考えているわ。そこで、この集落の民の力が必要って訳。ここまで言えば何を言いたいか分かるわよね?」
「徴兵という訳か……。じゃが、生憎この集落にお前さんらが望むような豪傑はおらんよ」
「しらをきるつもり?この集落には一つの村を丸ごと破壊できるヒトとその村を何事も無かったかのように再生して挙句の果てにはユリスまで再生するヒトが存在するのは分かりきっているの。あんな雑魚でさえそんな力を持っているのだもの。この集落にはそれ以上の力を持った民がいるのでしょう?」
「あの2人は特別じゃ。それに他の者も含めて皆、戦闘の訓練などまともに受けておらん。正直に言うが、お前さんの要望には応えられん。そもそも取引になっておらんではないか」
ケナードの言うとおり、取引とは簡単に言ってしまえば物々交換である。
マティアスはクインシェルの民が欲しいと言ってきたが、そのみかえりを彼女は話さないでいた。
しかしケナードの言葉を聞いたマティアスはキョトンとしていた。
「あなた、自分の状況を分かっていないようね。あなたの命と引き換えに集落の民を貸せと言っているのよ?ほら、十分取引になってるじゃない」
マティアスは自慢気に胸を張っていうと、ケナードは溜息を吐いた。
「残念じゃが、わしが死んだところで何も変わりはせんよ」
「構わないわ。あなたを殺した後無理矢理にでも連れ去っていくもの」
「ホッホッホ!お前さん、さっき自分で言ったことを忘れたんか?この集落にはあの2人以上に力のある者がおるのじゃろう?そいつらが束になっても、お前さんは勝てるのかのう?」
ケナードは自慢の髭を羽で器用に撫でると、マティアスは機嫌が悪くなったのか歯をギリギリと強く噛み締めた。
「もう一度言うが、わしを殺したところで何も変わりはせんよ。立場こそ酋長と名乗っているがそれはただの名前にすぎん。あやつらは今まで通り好きなように生きるじゃろう」
マティアスはそれを聞くと、呆れたように体の力を抜きフォルスの光も消えうせた。
「こんなところで老人を殺したところで何の自慢にもならないわ。お爺ちゃん、長生きするわよ」
「ホッホ、初めから殺す気など無かったくせに、よく言いおるわ」
ケナードは振り返りながら言うとマティアスは「は?」と聞き返した。
「お前さん程の実力があればわしが気配に気付く前に殺すこともできたじゃろう。それでもわしを殺さなかったのは何か訊ねたいことがあったのではないか?」
ケナードは探るように黄色く光る目を細めながら言うと、マティアスは機嫌を悪くしたのか腕を組んだ。
「……あなたの千里のフォルスは心の中まで見えるのかしら?」
「いんや、わしのフォルスは心の中どころか未来も過去も見えはせんよ。見えるのは今起きている事柄だけじゃ」
ケナードは瞳を閉じてから一度頷く。
「ふむ、じゃがお前さんが訊ねたいことは分かっておるつもりじゃ。……さっきのお前さんのフォルス、『龍』のフォルスじゃな?龍
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