「来たか・・・・・・」
男は留置所の前で腕組みをしながら仁王立ちしていた。
立派なクチバシにかかる赤色のサングラスは怪しく光り、背中からは大きな白い翼が生えていた。
男がリズムをとるように指の鈎爪で腕組みをした腕をトントンと叩いていると二人の人影が濃霧の中からこちらに近づいてくるのが見えた。
すると人影の内の一つが消えてしまう。
しかし男は眉一つ動かすことなく、残った人影へと歩み寄った。
「待っていた。ジーク」
ジークは何故自分の名前を知っているのか疑問に思い首を傾げたが、男は鼻で笑い、踵を返し留置所の方向へ向いた。
「こっちだ」
男はそれだけ言うと歩き始め、ジークもそれに付いていった。
そして陰湿な雰囲気を醸し出す留置所へと入り、階段を下ると牢が並んでいた。
部屋は右に3部屋、左に3部屋、計6部屋が向かい合うように並んでいた。
「入れ」
男はその内の左側1番奥の扉を開けるとジークを中に入るように促し、その後自分も入ると中から鍵を閉めた。
部屋の中は薄暗く、あるのは固そうなベッドと便器だけだった。
しかしその中に男とジーク以外にもう一人、ベッドに腰をかけている女性がいた。
「随分遠回しな呼び方するんだなお前」
ジークは皮肉混じりに言うと、彼女はふふっと笑った。
ジークにとって彼女は初対面ではない。
少なくとも皮肉は混ぜられるほどには。
「前も言ったよね?私の名前はお前じゃないって」
狐の耳を生やし、目には赤いアイライン、九本の尻尾を持つ彼女はベッドから立ち上がる。
「私の名前はヤコ。ヤコ・スイフト。そっちの彼はウォーレス」
「ウォーレス・ホークだ」
「ちゃんと会うのは初めましてだね、ジーク」
「どういう意味だ?」
「ちゃんと会うのは」と言われてもジークには理解できない。
今まで何度か会っているはずだ。
なのになぜちゃんとが付くのか。
「言葉通りの意味だけど?」
しかしヤコはジークの欲する答えをそのまま返してはくれなかった。
「もしかして、私のフォルスのことまだ分かってないのかな?」
ヤコは困ったように首を傾げるとジークの怒りのボルテージが上がっていった。
どうもこいつと話していると要領を得ない。
「あ。今こいつとか思ったでしょ。私の方が年は上なんだけどな」
「おま・・・ヤコのフォルスは心を読むフォルスなのか?」
「ハズレ、今のは女の勘。あ〜ぁ、2回目で私の幻術に気付くから期待してたんだけどな〜」
ヤコは九本の尻尾を揺らしながら微笑んだ。
その表情からは言葉の割に残念さは微塵も感じられない。
「幻術?」
「そ。君と一緒にカインを探したのも、さっき君を連行したのも私が作った幻。船の上で君と話したのも私の幻」
「幻って・・・・・・。でも触れたじゃねぇか」
「うん。私のフォルスはね、幻を無幻にも有幻にもできるの」
「てことは・・・・・・」
ジークはバルカ城の屋上にてユリスと対峙した時のことを思い出した。
体は傷だらけで動けなかったはずが、彼女が現れてから体が軽くなりいつもの倍以上の力を発揮できた。
それは恐らくヤコのフォルスによって痛みがないという妄想に取り付かれ、知らない力が有幻として具現化したのだろう。
「なんだよそれ・・・・・・反則じゃねぇか」
想像したものが現実となる。
こんな万能な力は反則技としか言いようがない。
「君に言われたくないな」
ヤコは拗ねたように顔を背ける。
と、そこへ今まで沈黙を貫いていたウォーレスが間に割って入った。
「そろそろ本題に入ろう」
「あ、あぁ・・・・・・」
ウォーレスが眼前に立った時、花の香りがジークの鼻を通り抜けた。
「ウォーレス、ちゃんと匂い落としてこなかったでしょ。牢屋が薔薇部屋みたい」
そう、ウォーレスから薔薇の香りが漂っていた。
「後で落とす。その前にジーク、お前は気になっていることがあるだろう」
赤いサングラス越しに見える目は鋭く、ジークは唾を飲んだ。
「何故俺達がこんなところにいるのか。何故お前を呼んだのか」
「理由があるのか?」
「全ての事象に理由は付き物だ。無意味だと言うものはただ無知なだけにすぎない」
「お、おう・・・・・・」
ジークが若干引き気味になるとウォーレスは鈎爪でサングラスの淵を抑えた。
「まず俺達が何故こんな所にいるのかというところから話そう」
「最初はね、街から逃げるためだったの」
「逃げる?」
ジークが聞き返すとヤコは悲しそうな目をしていた。
「俺達の街では人種差別があった。ラジルダのように種族同士がぶつかり合えるならまだしも、俺達の街はヒューマが一方的に支配していた。だが1年前の一件により一時は共生関係を築くことができた。しかし」
そこでウォーレスはヤコを一
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