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第50話『次期国王と忍冬』

フィレンツェが外へ出ると、足元には陣が展開されていた。

「いつの間に……」

フィレンツェは何となく陣の全貌を見ようとした。
しかしその陣は建物の脇を通っており、どうやら会場内を囲むように展開されているようだった。

「このような巨大な陣をあの娘が描いたというのか!?しかし何時だ……」

フィレンツェは主催者の机の上から全体を見ていたがアニーが陣を描く様子は見受けられなかった。
そもそも、彼女にはフィレンツェのフォルスに対する陣は無かったはずである。

「まさか、アニー・バースでも描けない陣を描くやつがるというのか……」

桃色の花を咲かせる木々が風に吹かれてざわめき、そのざわめきが妙に恐ろしく聞こえたフィレンツェは即座にキョグエンを後にした。
一方会場内ではヒューマとガジュマが戸惑っている影で未だに馬乗り状態で固まっている2人がいた。

「……ジ、ジーク?そそ、そんなところで何してるの?」

「フィ、フィオナこそ、顔真っ赤だけど……ね、熱あんのか?」

2人の姿を客観的に見るとジークがフィオナの腕を掴んでおり、顔は吐息がかかるほど近くにあった。
更にフィオナの顔は真っ赤に紅潮しており、瞳は今にも泣きそうな程涙目になっている。
もう幻覚も洗脳も解けている。
だが2人ともその状態のまま動こうとしなかった。
いや、動こうとしても動けなかった。

「ジーク君、あぶなーい!!」

大声を上げながらカインが走ってくるとカインはジークをサッカーボールのように蹴り飛ばした。
見事に鳩尾にクリーンヒットした蹴りはジークの体を打ち上げ、壁へバウンドさせた。

「てめぇ……何しやがる……!!」

ジークは鳩尾を押さえながらゆらりと立ち上がる。

「いやだってジーク君!今危険だったんだよ!危険が危なかったんだよ!!」

「危ねぇのはてめぇだ!!」

カインとジークが怒鳴りあっていると、そこにハーフの青年が歩み寄ってきた。

「2人とも久しいな」

ハーフの青年は馴れ馴れしく握手を求めるとカインは青年に向き直り握手した。

「まさかこんなとこで会うとはね」

「カイン、そいつ知ってんのか?」

カインの後ろでジークが眉をひそめていると、ハーフの青年は眉間に皺を寄せた。

「貴様、よもや次期王たるこの俺の顔を忘れたわけではあるまいな」

青年はカインの手を離すとジークに近付き、額をジークの額とぶつけた。
猫の耳、深い青色をした髪と瞳と偉そうな口調。
昔の記憶が深海から浮上してくるかのような感覚と共にジークは目を見開いた。

「お前……オーちゃんか?」

「ふんっ、今頃思い出したか。もし俺が既に王だったならば極刑ものだぞ、たわけが」

オーちゃんは怒り心頭といった様子で顔を離しながら腕を組む。
そこへヴェイグやブライト達も集まってくる。

「ねぇ、さっきから王って何度も口癖みたいに言ってるけど、もしかして君がレラーブが探してた第二王子なの?」

マオが訪ねるとオーちゃんは眉をピクリと動かし、ヴェイグ達にもう少し寄るように促した。

「レラーブを知っているとはさすがマオ大佐だ。確かに俺が第二王子だ」

「ぇえっ!?オーちゃんって王子様だったの!?」

オーちゃんは声を潜めて喋ろうとするが、ルルは驚愕のあまり声を張り上げてしまい、オーちゃんは口に人差し指を当て声を落とすよう促す。

「俺は便宜上死んでいる身なのでな。あまり公表しないでいただきたい」

アガーテ以外の兄妹は王の剣による暗殺計画が昔あったことをマティアスから聞いていた。
その際第二王子だけは生き残ったとも聞いていたが、どうやら彼が今まで生きてこれたのは既に死んだことになっているからだということだった。

「だが、少し手遅れのようだな」

ルルが驚いたような残念なような複雑な表情を浮かべている中、オーちゃんは一瞬でヴェイグ達の輪からバックステップで抜け出す。
するとオーちゃんの前にある自分の影から赤い瞳を眼鏡で覆うナイラがクナイを光らせ飛び出すと、迷うことなくオーちゃんに投げつける。
それをオーちゃんは腰から二つのチャクラムを取り出し左手で払う。
そしてナイラがもう一本のクナイを懐から取り出し今度はナイフのように切りかかるとオーちゃんは右手のチャクラムで防御し鍔迫り合いになった。
金属音と火花を散らしながらオーちゃんはナイラの左腕に付いている腕章をチラリと見る。

「貴様、王の剣か。今宵は懐かしい面々とよく会う日だ」

「ようやく見つけた……」

ナイラは殺意と憎しみを込めた視線でオーちゃんを睨みながらクナイに力を込めていく。

「お前さえ死んでいればマッティは!!!」

普段は声を張らないナイラが悲痛にも似た怒号を上げる。
が、しかし。
不意にナイラの足元にある影から腕が伸びてくると、その腕は
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