「代換品……か」
ヴェイグが静かに呟く傍らでヒルダは愛用の香水瓶を懐から取り出す。
「フィレンツェが生産していないのにもかかわらず、私達がこうして香水を買えてるってことは今現在もフィレンツェの「代用品」が香水を作ってるってことなのね」
「デュナルスの動機はフィオナから聞いてるから知ってるよね。ただファルブだけは僕も知らなくてさ……」
「あいつはただ暴れたいだけじゃないの?」
カインが仲間をスカウトしている時一緒にいたジンが首を傾げるがカインは首を振った。
「再生する時に何か記憶みたいのが見えた気がするんだけど、一瞬で闇で覆われちゃったから見えなかったんだよ。とりあえずユージーンをすごく恨んでいるみたいだったけど……」
「俺か……」
突然自分の名前が出てきたにもかかわらずユージーンは特に驚く様子もなく、ただ俯くだけだった。
「ユージーン?」
そんな様子が気になったマオが声をかけるとユージーンは苦笑いをこぼしながら顔を上げる。
「俺は王の盾の隊長としていくつもの戦場をかけてきた。無論多くの命も奪ってきた。どこで恨みをかっていても不思議ではないと改めて実感しただけだ」
「その中の1人がファルブってこと?」
マオは納得できないように目を伏せるが、ユージーンは肯定の代わりにマオの頭に大きな手を乗せた。
「隊長ってのは名前だけ聞けば格好良い役職のようにも聞こえるが、大量殺戮の免罪符のようなもんだもんな。格が高ければ高い程そいつがどれだけのヒトを殺してきたのか分かるシステムってのは皮肉だよな」
ブライトは後ろ髪をかきながら言ったあとはもう誰も話さなかった。
それから暫く木製の橋を歩いていると対岸が見えてくるのと同時に橋の終わりが近付いてきた。
「あら?もうこんなところまで来ていたのね」
ヒルダは訝しがるように眉をひそめる。
ここまで何も考えずにぼーっと歩いていたわけではない。
にもかかわらず「もう」と言ったのは気温の変化が全く無かったからである。
キョグエン地方からノルゼン地方に入ると雪までは降らないが気温が急激に下がる。
それがノルゼン地方に入った合図にもなるのだが、ヴェイグ達が橋を渡りきってもなお気温は下がることがなかった。
そして気がかりなことがもう一つ。
橋を渡っている最中、木製の橋が途中から濡れていた。
海面と橋の隙間を見る限り増水した形跡は見られないため雨が降って濡れたということはない。
つまり、橋に積もっていた雪が最近になって溶けたということが推測される。
そう、本来常時氷点下のはずのノルゼン地方の気温が上がっているのだった。
「天変地異万歳だな」
直後、ジークの後頭部をブライトとフィオナの2人に叩かれた。
気温は暖かくとも流石に雪は積もっており足を踏み出すと雪は溶けかけのアイスクリームのようにぐしょぐしょの状態だった。
本来の気温で雪もカチコチに凍っていれば滑る心配もないのだが、なまじ溶けているため水分により摩擦が無くなり滑りやすくなっていた。
「こいつは警戒していく必要がありそうだな……」
「そんなに気を張る必要もねぇだろブライト!滑ったって転ぶだけだぜ?」
ティトレイは笑いながら言うと、ブライトは慌ててティトレイの口を塞いだ。
「あんまり大きな声を出すんじゃねぇ……!!」
ブライトは極力声を殺しながら怒鳴った。
ティトレイの口から手を離した後、左右に聳(そび)え立つ山脈に目をやる。
「雪が溶けかけてるってことは、雪崩もおきやすいってことだ。この先山脈に挟まれた道を歩くんだぞ?そんな時に大声を上げてみろ。左右の山から雪崩が襲ってくるぞ」
「サンドイッチかよ!?」
「だから大声だすなっつうの!!」
ブライトはティトレイの頭に拳骨をかます。
「兎に角、山脈に囲まれた道で雪崩にあったら逃げ道はねぇんだ。そこんとこ、十分注意しろよ」
ブライトは全員に視線を送ると、11人は頷きシャーベット状になった雪道を歩き始めた。
* * *
「マッティ……何であの時邪魔したの?」
「え!?何だって!!?」
マティアスは猛吹雪の中、腕で視界を護るようにしながら雪原を進んでいた。
あまりの暴風に音はかき消され、ナイラも両腕で自分の体を抱きながらガタガタと震えていた。
ルーベルトを発見し、始末しようとしたところに片足だけ影の中にあったところをマティアスに引っ張られ王子の殺害は未遂に終わってしまった。
折角マティアスの敵を討とうとしたのにもかかわらず文字通り足を引っ張られたナイラは納得することができるわけもなくマティアスに抗議しに来ていた。
そうして影から出てみると何故かマティアスは極寒の雪原の中におり、突然の温度差にナイラは心臓麻痺を起こすかと思った。
い
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