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第63話『追う者と託されし物』

ヴェイグ達は一旦宿屋の外に出た。

広場から見る空は雲っており、気温も先程よりも明らかに寒く感じた。

「やはりな」

ルーベルトはテーゼンの指に視線を向けながら言うと、テーゼンは首を傾げた。

「やはりって、何が?」

「貴様がもらったというその指輪、フォルスを制御する機能を持つと言っていたが俺にはどうも信じられなかったのだ」

「信じる信じないはあんたの勝手や」

テーゼンは馬鹿馬鹿しいと言う代わりに手首をヒラヒラと返して見せるが、ルーベルトは鼻で笑った。

「信じていないのは果たして俺だけか?現に貴様が指輪を嵌めているのにもかかわらず、再び雹(ひょう)が降り出しそうな天気ではないか」

「そんなんウチかて知らんわ!せやけどこの指輪はきちんと機能してる!」

そこへルルがルーベルトのマントの裾(すそ)を短く引っ張った。

「前に私達がノルゼンに来た時も雲ってたし、もっと寒くて雪も降ってたよ?」

「……」

ルーベルトはフリーズした。

「……?どないしたん?急に黙りこくってからに」

「指輪は機能してんのにそれでも寒さが戻らねぇっとことは、指輪は制御し切れていないってことか?」

ジークはブライトに訪ねるが彼は困ったように眉をひそめた。

「それに関しては俺もどうも言えねぇなぁ……」

「あー多分それはあると思うわ」

テーゼンはポンと手を叩き、ジークとブライトの会話に割って入った。

「カレギア軍とかで使うとる石みたいなやつあるやろ?ウチらぐらいのフォルスになるとあれでも抑えきれへんねん」

「そうか……」

規格外の強さを持つフォルスとなるとカレギア軍の牢屋にも使われているフォルスを抑制する石をもってしても完全に抑えきることはできない。
ならばヤコのフォルスもテーゼン達同様に規格外のフォルスということならば牢の中にいるのにもかかわらず幻を操作をできる理由に納得がいく。

ジークは少し謎が解けたような気がして満足していたが、対してテーゼンは口をへの字に曲げて腰に両手を当てていた。

「ていうか何なん?せっかくウチのデリケートな部分を教えてやったっちゅうに、反応薄すぎとちゃうの?」

「……聞いたらまずかったのか?」

「んなことあらへんけど?」

ジークが訪ねるがテーゼンは平然と答えた。

「気にしないでよテーゼン。ジークはそういう病気のようなものだからさ」

笑顔で言うマオに対して今度はジークが眉をひそめた。

「ねぇ。それよりアレ、どうすんの?」

ヒルダが指した方向には上下が真っ二つにされた人魚像があった。
土台に魚の部分を残し、人間の部分は頭から雪原に突き刺さっていた。
それをフィオナが傍らにしゃがみこんで見つめていた。

「フィオナさん……」

一同は人魚像の周りに集まり、アニーがそっと声をかける。
すると、フィオナはおもむろに立ち上がった。

「ここはね、お父さんとお母さんの思い出の場所だったんだって」

フィオナは像の土台に手を添えながら話し続ける。

「お父さんはラジルダ出身なんだけど、お母さんはノルゼンのヒトだったの。それでデートする時はいつもこの人魚像を待ち合わせ場所にしてたってよく聞かされたわ……」

そう、ここはギュナルスにとって沢山の青春が詰まった場所であり、人魚像はその象徴でもあった。
象徴とはなにも待ち合わせのための目印の役割をするだけではない。
ここであった出来事や思い出を思い出すためのきっかけにも成り得る。
そんな人魚像をギュナルスは切ったということは、つまりそういうことなのだろう。

「ごめんなさい、私ちょっと……」

背後にいたアニーとジークの間を抜け、フィオナは広場の中央を突っ切り路地の方へと走って行ってしまった。

「ジークさん」

「あぁ、分かってる」

アニーに視線で促され、ジークは頷く。
そして踵を返し、走り出そうとした時だ。

「ジーク!!」

ルーベルトに呼び止められ、振り返ると白い棒のような物が宙を舞っていた。
ジークはそれを受けとるとルーベルトはニヤリと笑みを浮かべた。

「フィオナを追うなら持っていけ!俺様のとっておきだ!」

「これが……か?」

ジークは受け取ったものを見つめる。

「貴様なら必要になるはずだ。だが勘違いするな、それは決して譲渡したのではない。何時か必ず返しに来い」

「だったら今返して良いか?」

ジークは差し出すとルーベルトは首をぶんぶん横に振った。

「と、兎に角だ!俺は一刻も早くレラーブと合流しなければならぬ故先に失礼させてもらう!次に会うのは何時になるか分からんが死ぬことだけは断じて許さん!だから約束しろ、必ずソレを返しに来ると」

ジークは手元の物を見つめてから頷いた。

「ではな」

ルーベルトは赤いマントを翻すと、街の出口へと
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