カインは慎重にフォルスをガジュマの身体に注ぎ込む。
少しでも純度を高めすぎれば己の寿命を持っていかれてしまうが、薄すぎても傷口から出血が止まらず失血死してしまう。
だからこそカインは精神を研ぎ澄ませ、針の穴に糸を通すような感覚でフォルスを使っていた。
(よし!なんとか傷口は塞がってきた)
カインは肩の力を緩めた。
ここまでくれば濃度を薄めても一命は取り留められる。
「ちょ、ちょいとお兄さん……あんたヒューマだろ?何でガジュマなんか治療してんだい?」
麦藁帽子をかぶり、すっかり腰の曲がったヒューマの老婆が、宿屋から出てくるなりカインの正面に立ち問いかけてくる。
「お兄さんは知らないだろうけど、この村はガジュマに襲われたんだ。お兄さんが今助けようとしている男と同じガジュマにね」
「知ってますよ」
カインは老婆には目もくれず治療を続ける。
それが余計に気に入らないのか老婆は肩をわなわなと震わせ、興奮し始めた。
「し、知ってるなら尚更だよ!そいつはあたし達を襲った男と同族なんだ!自業自得なのさ!だから死んで当然なんだよ!」
そうだそうだ!と、民家に隠れて老婆と同じように状況を見ていたヒューマがはやし立てる。
それでもカインは冷静を乱すことなく、回復を続ける。
「それでも、このヒトを見殺しにする理由にはならない」
「ガジュマの肩をもつってのかい!?だ、だったらあんたも同罪だよ!」
老婆はカインの手をガジュマから離そうと彼の手を掴もうと手を伸ばす。
しかし即座に回復を中止したカインは片手で老婆の腕を掴んだ。
「いい加減にしてよお婆さん。あなたはガジュマが悪いみたいに言うけど、同じヒューマの僕も悪いって言うならお婆さんの味方って一体誰なのさ?敵って誰?」
「あたしは敵とか味方とかそんな稚拙なことを言ってんじゃない!」
老婆は怒鳴りながらカインの手を振り解くと、カインはガジュマの治療を中断し立ち上がる。
「ガジュマやハーフはあたし達とは違うって言ってんだよ!!」
老婆は禁句に触れた。
もしガジュマだのヒューマだの話だけならカインも穏やかに説得していたかもしれない。
むしろ最初から老婆とは口論するつもりもなかった。
とりあえずどんな形でもいいから納得してもらい、はやく治療に戻りたかった。
だがカインにとって、ハーフの話題を持ち出されることは全ての建前を崩すトリガーと成り得てしまう。
「ハーフも僕達とは違うって?」
カインは俯きながら最終確認するように呟く。
「何か間違ってるかい?他のヒューマにも聞いてごらんよ、全員が頷くはずさね」
老婆は得意気な表情で詫びれも無く言い放つ。
カインは拳を握り締める。
「重症人に種族なんて関係無いだろうが!!!」
「え……?」
辺りが一瞬にして静寂に包まれる中、アニーだけが一言無意識に漏らした。
「このヒトはあんたと『同じ』ここの村の住人じゃないのか?もしこのヒトがあんたの家族か親戚でも同じことが言えるのか?今ここで見殺しにすればあんたは立派な殺人者にるんだぞ?その覚悟はできてんのか!?」
カインが畳み掛けるように言うと老婆は腰を抜かし、震えていた。
そんな老婆を見てカインの頭に上っていた血が一気に下がり、冷静さを取り戻すと同時に罪悪感が襲ってきた。
「あ……」
謝ろうかと思った。
だが、ここで謝ればこの男性を侮辱することになると思った。
だからカインは何も言わずにガジュマの治療に戻った。
そこへティトレイが来るとしゃがみ込んだ。
「ほ〜らばあちゃん肩貸すぜ?大人しく宿屋で休んでな。話なら俺がゆっくり聞いてやるからよ」
老婆はティトレイにおぶさると宿屋へと消えて行った。
「カインさん……」
そんな様子をアニーもまた治療をしながら眺めていた。
「アニーさん、嬉しそうですね」
「えっ?そうですか?」
ニノンは難しそうな顔をアニーに近付ける。
「はい……そんな顔をしてます」
「そ、そうなんですか」
何時もとは逆にアニーが戸惑ってしまう。
だが確かに嬉しいと感じていたのかもしれない。
ニノンがお辞儀してからパタパタと走り去ってから、アニーはもう一度カインを見た。
* * *
独りになった野営テントで、ジークは相変わらず海賊証を眺めていた。
眼帯や子分、追っ手。
いまいち噛み合わなかった少女の言葉も、彼女が海賊だと仮定すれば全てが納得できる。
となると彼女が言っていた追っ手というのは軍の関係者なのだろう。
以前マティアスが海賊を掃除してやると息巻いていたことを考えると、もしかしたら王の剣のうちの誰かと出会ったのかもしれない。
「何それ?」
突然足元から声がしたためジークは咄嗟に海賊証をアイテムポーチに突っ込んだ。
「……何
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