ジークはこう見えても13年間フリィース家の食卓を支えてきた男である。
料理のさしすせそは心得ているし包丁捌きにも自信はあった。
おかげでラキアとクレアの足を引っ張ることはなく、2人もジークの腕前に目を見張る程だった。
しかしそれはあくまでもテクニックの話。
ジークにとって今立っている場所は何時も立っている場所とは別次元だった。
これが本当の戦場と言うのならジークがやっていたのはただのチャンバラにすぎない。
そう思えるほど別世界だった。
計算された手順に一切の無駄の無い動き、自然の素材の味をそのまま生かそうと味付けは最小限、無駄な時間を省くための時短テクニック、だがそこには食べるヒトへの配慮が必ず施される。
やはり、13年という年月を積み重ねても男の料理と女の料理では違いがはっきりと出てしまう。
所詮男の料理は味やロマンを突き詰めていっただけだ。
確かに美味しいかもしれない。
だが食材食器調理器具に拘り、手間暇をかければ誰でも美味しい料理は作れる。
だが彼女等はその先を見据えている。
ジークが13年かけても見えなかった景色を彼女達は当たり前のように見ていた。
「完敗だ……」
「えぇっと〜……ジークは何と戦っていたの?」
料理をテーブルに並べ終わったクレアが跪(ひざまず)いてるジークを見て苦笑いをこぼす。
と、そこへラキアが歩み寄り膝を折ってジークに目線の高さを合わせると、ポンと右手をジークの肩に置いた。
「料理は奥が深い。勉強したくなったらいつでもおいで」
ジークは顔をあげ、ラキアを見つめる。
「せ、先生……」
「呼んだか?」
壁に貼り付けてあったヴェイグが昔描いた絵を眺めていたブライトが振り返ると、ジークが物凄い形相で睨んでいた。
「あ、お呼びでねぇと……」
「言っておくけど私のレッスンは厳しいよ!?免許皆伝まで最低3年は覚悟しな!」
「はい!」
そんな会話を下の階で聞いていたルルがジンの腕を揺する。
「ジ、ジン兄さん!ジーク兄さん帰って来なくなっちゃうの!?」
「は?いや、あんなのただのノリだろ。そもそもジーク兄さんがルルを放っておけるわけないじゃん」
「そんなの分かんないもん……」
俯きながら頬を膨らませるルルを見てジンは、今までのジークの様子を見て何故分からないのか不思議でしょうがなかった。
「そんなことよりご飯みたいだしさ、俺達も行こう」
「うん」
ジンとルルが上に戻ってから暫くして全員が集まった。
と、思われたが1人足りない人物がいた。
「フィオナがいねぇな」
ジークの言うとおり、フィオナの姿が無かった。
「珍しいですね、フィオナさんがご飯の時間になっても来ないなんて……」
アニーが頬に手を当てながら失礼なことを言っていると隣にいるニノンが羽をパタパタさせた。
「そ、そういえばさっき、村の奥へ歩いていくのを見ました!」
「集会所か」
ヴェイグの一言でジークの脳裏にフィオナにビンタされた時のことを思い出した。
確かあの場所は廃虚になった状態ではあったが集会所の前だった。
「探してくる」
ジークが家から出ようとすると、不意に後ろから腕を掴まれた。
「待って。私が探しにいくわ」
振り向くと腕を掴んでいたのはクレアだった。
「調度フィオナさんとは話たいこともあったの。だから、私に任せてくれないかしら?」
「あ、あぁ……」
ジークは渋々了承するとクレアはニコリと笑みを浮かべ、外へ走って行った。
* * *
地元民からは集会所と呼ばれている木造の教会のような建物の扉をクレアは開くと、中にフィオナはいた。
「フィオナさん、ごはんできましたよ」
クレアが歩み寄りながら言うと、フィオナはゆっくりと振り返った。
「クレア……ありがとう、すぐに行くわ」
「その前に、ちょっとお話しませんか?」
「え?」
クレアが笑みを浮かべるのに対してフィオナは一瞬戸惑う。
が、すぐに頷いた。
「別に良いけど……でも何で今なの?」
「だって折角の食事なのに悩み事抱えてたら美味しさが半減しちゃうじゃないですか。だから食べる前にすっきりしてもらいたいな〜って思ったんです」
フィオナは相変わらず笑みを浮かべているクレアの顔を見て目を見開いた。
彼女とは今回が初対面のようなものだ。
にもかかわらず心情を見抜かれている。
「フィオナが悩むとしたらやっぱり……ジークのことかしら?」
クレアは人差し指を下唇に当て、視線を斜め上に向け独り言のように呟く。
「なっ、何で分かるの!?クレアって能力者じゃないのよね!?」
フィオナはあまりの衝撃に一歩後ずさったが、クレアは再び笑みを浮かべる。
「ふふふっ、私ヒトの表情を読むのにはちょっと自信があるの。誰かさんのおかげで
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