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宵闇の劇場

 言うなれば、これは悪夢である。
 あの日から繰り返される常夜だ。
 決して明けない。決して醒めない。
 俺はただ、この席に腰掛ける。待っているのではない。休んでいるのでもない。
 ただ、疲れたのだ。
 指先を1ミリ動かすことさえ躊躇い、ただこの夜闇の中で座り続けている。
 さりとて、やることがないわけではない。
 目の前のこれは実に煌びやかだ。
 広く高い扉には装飾が施されていた。
 幾何学模様が複雑怪奇にまじりあい、黄金を削り出した像がいくつも埋め込まれている。
 それは人が苦しみにもがいているようでもあり、気持ちよく泳いでいるようでもある。
 ふと、扉が小さく軋んだ。大きさに似合わず、軽く、ふわりと扉は開く。
 黄金の扉の奥には、深く赤いカーテンで遮られていた。
 俺はただそれを見つめる。カーテンのすそははためいている。奥からは小さな喧噪さえ聞こえた。
 誰かが、そこにいるのだ。
「ようこそ――。ご来場の皆様」
 カーテンの奥から声がする。開いているはずのこの空間で、イヤに響いて聞こえる音だ。
 声は――男、だろうか。
「本日も我等が劇場にご足労いただきまして、誠にありがとうございます。
 今宵の演目は――ククッ、いえ、私の口からお知らせしてしまうのは些か無粋なものでしたか」
 それでは、ごゆるりと――。
 声がそう告げて、するりするりとカーテンが開く。
 ああ――。
 今日も、この悪夢か。
 
 
 
 
 
 かつて、少年は夢を抱いていた。
 それは切実な願いであった。大望であった。情熱であった。希望であった。
 故に――ただ、光り輝いていた。
 ただそれに向かうことが唯一の解であり、正義であり、また光であることを信じて。
 
 
 
 やめろ。
 俺の唇はそう動く。弱々しい声は闇を震わせず、辺りにすっと溶けていく。
 
 
 
 少年はようやく、夢を掴んだ。
 歓喜する。高鳴る胸を抑えきれず、夜闇と荒れ狂う風を振り払った。
 そうして同じく夢を持った少年に言うのだ。手を差し伸べ、勝利を宣言するのだ。
 しかし彼はどうだ。
 希望を見出せず、伸ばす手も持たず、唯少年であった彼は、どうだ?
 
 
 
 ちがう。間違っている。
 あいつは持っていた。
 
 
 
 彼と離れ、少年は夢の先に出会う。
 夢の先。それは輝きを失った虚ろなる城か。求めすぎた故の荒廃は、少年の未来の暗示か?
 それを是とは言わないだろう。君は。
 だからこそ受け入れたのだ。一握りの勇気と、切実な希望に支えられた強さを持って。
 壁を払い、扉を開き。
 力を手に入れた――。
 私と同じように。
 
 
 
 ――ああ、そうだ。あの城で言われたように。
 だから俺によくなじむ。
「そう――。私は君の可能性。もう一人の自分とさえ言えるかもしれない」
「あんたも俺と同じだって?
 あんたもキーブレードに選ばれて、友達のためだの夢だの自由だの、理由を付けて闇を受け入れて――挙句、この様か?」
 演者は答えない。壇上でただ――過去の「少年」を演じている。
 俺の姿だ。
 ただの少年から、少し踏み外した姿。
 あの頃は、ああなれば何でもできると思っていた。自分の中の何を殺したのかもわかっていない少年の姿。
「やっぱり、あんたは大したことがないな。そうやって自分を捨てたって、ソラにも――俺にだって勝てやしない」
「大いなるものとはそういうものだ。強いが故に、ある一端を見れば御しやすい一面もある。
 それは、たかだか7人の心と鍵で守られている『王国の心』もそうであり――君もそうだ」
「なら――この場であんたを倒してしまえば、夢の中でも眠ってくれるのか?」
「そうなると思うかね? ――その姿で」
 壇上の自分が指をさす。過去の姿が口端を歪める。金色の瞳が細くなり、一点、今の自分を注視した。
 ――思わない。それが答えだ。
 だからこそ、この悪夢を受け入れている。ただ見ている。
 弾劾のつもりか。違う。そんなつもりはない。自分の抱えたものの意味は知っている。責任も――取り続ける。
 壇上の『過去』も、そういう意図ではない。
 心は天秤と同じなのだ。善と悪。光と闇。慈愛と憎悪。友情と嫉妬。左右のバランスが崩れれば、あっという間に崩壊する。
 ただ壊して、俺を壇上に引き上げるのだ。揺れた心に入り込み、支配し、『演者』とするために。
「さぁ、踊りたまえ。私と同じ曲を奏で、私と同じ詩を歌え。親和し、協調し、そして目指すのだ。
 13の席を埋め、時を戻し、鍵を司り、そして手に入れる。一切を。かつて望んだものを手に入れよう。
 我等の翼を広げるには、この鳥かごは狭すぎる。違うかな?
 あの海と空の境界を、羨望の目で見続けるだけの少年に戻るのか?
 知ってしまったのに? この世界
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