「あとはこの布を取り付けて・・・よし、完成だ!!」
ロープの結び目を確認しながら、リクが声を上げる。
四人の目の前には、白い大きな帆をつけたイカダがそびえ立っている。
皆で海の向こう、他の世界へ行くための大事なものだ。
そのでき前に満足するように、ソラたちはにっこりと笑った。
「あ、そうだ。このイカダの名前、まだ決めてなかったよな」
リクは振り返ると、再びマストを見上げながら言った。
「そういえばそうだね」と、カイリも返す。
「どんな名前にする?」
「うーん・・・」
ソラはしばらく腕組みをしていたが、それを遮るようにリクが言った。
「俺はハイウィンドっていうのはどうかと思っている。高く舞い上がる風、ハイウィンド」
「ハイウィンドか〜。俺はエクスカリバーっているのがいいと思ったんだけど」
「伝説の剣だね。ソラらしいや」
カイリはくすくすと笑ってサクヤに視線を向けた。
「サクヤはどう?何かいい名前はある?」
「え?」
ソラとリクの視線も、サクヤに注がれる。
サクヤは少し迷ったが、頭の中に浮かんだ名前を口にした。
「・・・ルミナス」
丁度風がやんでいたせいか、サクヤの声ははっきりと聞こえた。
「ルミナス――。光り輝くっていう意味か」
「いいじゃんいいじゃん!それ採用。流石サクヤ」
「もう。ソラはとことんサクヤに甘いんだから」
カイリがそう言うと、ソラは照れたように頭をかき、リクは思い切り笑った。
「もう日が暮れるね」
いつの間にかソラは茜色に染まり、水平線まで同じ色になっている。
「あの向こうには、カイリの元の世界があるんだよな?」
確かめるように口にしたソラの言葉に、カイリは視線を向けながら言った。
「それは、わからないよ」
「だけど、行ってみないとわからないままだ。もちろん、サクヤの事もな」
そういってリクは、ソラの隣で座っているサクヤを見つめる。
視線を感じたサクヤが振り返り、二人の視線がぶつかった。
「このイカダでどこまでいけると思う?」
「さあな。ダメだったら――、別の方法を考えるさ」
ソラの言葉に、リクは腕を組んだまま水平線を見据えた。
その姿をまねて、サクヤも水平線に視線を移す。
いつもと変わらない、デスティニーアイランドの海。
2年前、サクヤがここにいた時は夜だったが、あの日も海は変わらず波の音を届けてきていた。
そんなこの世界から、自分たちは近いうちに旅立つ。
もしもほかの世界がこの先にあるのなら。自分の事もわかるかもしれない。
「ねえ、リクは他の世界に行ったらどうするの?ソラみたいに見れば満足?」
カイリがすこし不安げに聞くと、リクはそのままの姿勢で答えた。
「実を言うと、あんまり考えていないんだ。ただ、他に世界があるのなら、どうして俺たちはここじゃなきゃだめだったんだろうって」
「どういう意味?」
「そうだな。この世界が小さなカケラのようなものなら――」
そしてリクは振り返り、ソラ、カイリ、サクヤの三人の顔を見て言った。
「どうせカケラなら、ここじゃなくても構わないわけだよな?」
「わかんねぇ」
リクの話が難しかったのか、ソラはそう答えて横たわった。
「そういうことだ。黙って座っていても何もわからない。動かなきゃ。立ち上がらなきゃ、同じ景色しか見えないんだ」
「リクって、いろんなことを考えているんだね」
リクの背中を見ながら、カイリは静かに呟くように言った。
「カイリのおかげだよ。あ、違うな。カイリとサクヤのおかげだ」
「わたし、も?」
思わぬところで自分の名前を出されたサクヤは、驚いたような顔でリクを見た。
「二人がこの島に来なかったら、俺はきっと何も考えていなかったと思う。ありがとうな、二人とも」
彼の言葉にカイリは照れたように笑い、サクヤはきょとんとした顔で見つめ返した。
「あ、そうだ。サクヤ。何か歌を歌ってくれよ」
不意に寝転がっていたソラが起き上がって言った。
サクヤはぽかんとしたまま彼を見つめ返す。
「唐突だな」
「唐突だね」
「なんだよ。急に聴きたくなったんだから仕方ないだろ?」
ソラは少し膨れながらも、サクヤの方を向いて言った。
サクヤはこくんと小さくうなずくと、すっと立ち上がって口を開いた。
透き通るような声が、風に乗って空へ、海へと流れていく。
優しくも切ない旋律と不思議な言葉の歌詞。聴いているだけで不思議な気持ちになる、まるで魔法のような歌。
まるで、これからの旅立ちを祝福するような、どこかへ導いてくれるような。
そんな気持ちになりながら、ソラたちは目を閉じて、その歌に耳を傾けるのだった。
歌が終わると、あたりは再び波と風の音だけになった。
「さて、そろそろ帰ろうか。あんまり遅いと、また怒られち
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