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第四章:旅立ちの序曲U(後編)

サクヤはびくりと肩を震わせ、声のした方を見る。

そこには、白いローブを着た人物が静かにたたずんでいた。

背丈はサクヤと同じくらい、子供だろうか。
ローブの下は、顔の上半分を覆っている笑顔と泣き顔を模したような仮面にさえぎられて完全には見えない。

そして、その腕には子猫のような人形が抱えられていた。

サクヤの新しい記憶の中に、このような人物はいない。

「あなた、ダレ?」

サクヤが問いかけると、ローブの人物の口元に笑みが浮かんだような気がした。

「もしかしたらと思って来てみたけれど、思ったよりはマシかな」

口調は重いものではないはずなのに、その声色はとても不気味に聞こえる。

「あなたは、わたしを知っているの?」
「知っているともいえるし、知らないともいえるかな」
「・・・わからない」

サクヤは思った言葉を口にした。
言葉の意味もそうだが、この人物がなぜここにいるかもわからない。

いや、一つだけわかることがあった。

この世界の者ではない

自分やカイリと同じく、この人物も他の世界から来たのだろう。

それだけは、サクヤもどこかで理解していた。

「そんなことよりも、僕は君に警告をしに来たんだ」
「警告?」
「そう、警告。もうすぐ終焉が来る。その警告さ」

その言葉を聞いた瞬間、ざわりとしたおぞましい感覚がサクヤを襲った。
ひんやりしていた空気が、さらに冷たくなったような気がする。

「終焉って、どういう意味?」
「そのままの意味だよ。世界の終わり、すべての終わりさ。扉は開いていないとはいえ、この世界は【繋がって】しまったのだから」

どうも、ローブの人物の言っている言葉の意味が分からず、サクヤは首をかしげながら難しい顔をした。
更に彼はつづけた。

「だからこそ、力が必要になるんだ。何故この場所なのかはわからないけれど、【契約】も済んで【認識】されているのは喜ばしいことだからね」

彼の言うことを、サクヤは黙って聞いていた。
言葉の意味はまったくと言っていいほどわからないが、嫌な感じがすることだけは理解していた。

サクヤの反応を見ると、ローブの人物は小さくため息をついた。

「その時が来れば、嫌でもわかるよ。たとえ、どんなに見たくないものでも、聴きたくないことでも、ね・・・」

そう言ってローブの人物は扉の方へ視線を向ける。
サクヤもつられるように、視線を扉に向けた。

木でできた、取っ手も鍵穴もない謎の扉。
サクヤが来る2年前よりも前にあったという、奇妙な扉。

「あなた、本当に誰――」

サクヤが振り返ると、ローブの人物の姿は消えていた。
残されたのは風の音と、呆然と立ち尽くすサクヤだけであった。
15/01/10 22:53更新 / 星三輪サナ

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