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第一章:望月の歌姫W

「こんな時間までどこに行ってたの!!」

本島に戻ってきたソラたちを出迎えたのは、彼らの両親を含めた村人たちの怒号だった。
皆怒りと心配が入り混じった顔でこちらをにらんでいる。

3人はびくりと体を震わせると黙ってうなだれた。
子供が出歩くには遅すぎる時間であり、ましてや親に内緒で海へ出ていたのだ。怒られるのも無理はない。

仁王立ちしている自分の母親を前にして、ソラはまるで叱られている子犬のようだった。

「まあまあ」

そんな大人たちに優しく声をかけたのが、カイリの親代わりをしている村長だった。

「皆無事で戻ってきたんだ。それでいいじゃないか。それ伝える言葉をまだ私たちは聞いていないぞ?」
「ですが・・・」

親たちは何か言いたげに村長を見たが、彼の優しげな笑顔に先ほどの怒りも萎えてしまった。

「とにかく・・・無事でよかった。だけど、もうこんなことは二度としないように」

「「「はぁい・・・ごめんなさい」」」

ソラたちが心からの謝罪を口にすると、皆の顔に笑顔が戻った。

「ところで。君たちの後ろにいるお嬢さんは、新しい友達かい?」

村長は3人の後ろに立っていた見慣れない少女に目を移すと、ソラに優しく問いかけた。
それを聞いて、ソラはあっと思い出したように言った。

「そうだ。島にいたから連れてきたんだけど、きおく・・・なんだっけ?」
「記憶喪失、だ」
「あ、そうそう。それ。きおくそうしつなんだよ、この子」

ソラとリクがそう説明すると、村人がざわめき始めた。
中にはわざわざ顔を見に来る者までいる始末だ。

「なんと!それは大変だ。誰か、このお嬢さんを知っているものはいないか?」
村長は村人たちに向き合い声をかけてみるものの、皆顔を見合わせるばかりで誰一人名乗り上げようとはしない。

少女の方も、何も思い出せないのかただ首をかしげている。

「ううむ、困ったな。ソラたちはほかに何か知っているかい?」

「う〜ん・・・俺たちが知っているのは・・・歌がすごくうまいってことだけだよ。名前も覚えていないって言ってたし」

その言葉を聞いて、村長はますます頭を抱えた。まさか、名前まで分からないとは思わなかったのだ。

だが、もう夜も遅く風も冷たくなってきている。このまま黙って時間が過ぎていくのはいただけない。
このまま居心地の悪い沈黙が続くかと思われた、その時だった。

「だったら、俺がこの子の面倒を見る!!」

沈黙を切り裂いた声に、皆の視線が一斉に注がれる。
その声を発したのは、天に向かってめいっぱいに腕を上げたソラだった。

「な、何を言っているのソラ!」

ソラの母親が驚きと呆れを含んだ顔で彼をにらんだ。

犬や猫などの動物ならまだしも、面倒を見るといっているのは人間の少女だ。
余りにも軽率すぎるソラの言動に怒るのも当然だ。

「これはあなたが簡単に決められることじゃないのよ。第一、あなたはまだ子供でしょ?人の面倒を見るってとても大変なことなのよ!?」

「そんなの分かってるよ!だけど・・・だけど放ってなんか置けないよ。それに、やって見なくちゃわからないだろ!?」

「いいえ、いけません。ここは村長さんに任せましょう。きっとすぐに御両親やお家を探してくれるわ。あなたも、その方がいいでしょう?」

ソラの母親はそう言って少女の方に顔を向けた。
少女はしばらく彼女を見ていたが、突然首を横に振った。

「私、ソラといる。ソラと一緒がいい」
「ええっ!?」

少女の思わぬ言葉に、周りがたちまちどよめいた。
中でも、一番驚いた顔をしていたのは、あろうことかソラだった。

「行きたくないのか?」
「・・・私は、ソラといる・・・どうしてかはわからないけど、そうしたい」

少女の口調はたどたどしい。だが、その言葉には迷いの類は見られない。

彼女のかたくなな態度に、村長は小さくため息を吐いた。

「やれやれ。本人がこう言っているようでは、我々も無理強いはできませんな。どうでしょう。せめて今日一日だけでも・・・」
「・・・そうですね。いくらなんでも、こんな夜の島に迷子を放り出すわけにもいかないですしね」
「・・!じゃあ!」

ソラが母親を見上げると、彼女は小さくため息をついてまいったというように両腕を広げた。

自分の申し出が通ったことを知り、ソラは大きくガッツポーズをする。
それを見たリクとカイリも、安心したように胸をなでおろした。

ソラの家に案内された少女は、その後ソラの家族と共に夕飯を済ませ、今日の寝床をどうするか相談した。

少女はソラの一緒がいいと申し出たのだが、さすがにそれはまずいというのことで、今夜はソラの母親の部屋で寝ることになった。

その夜。

ベッドの中でソラは少女の事を考えていた。

彼女はいったい何者なのか。
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