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2-10 俺達の戦いはこれから、だと思ったら既に始まっていた。

4月24日



「なんだこのクソアニメ共はっ!」
 
 ユイがいきなしそんなことを、開口一番に叫んだ。

「なんだあれは! 視聴者舐めてんのかアァンッ!?」

 なんでヤンキー口調なんだ……

「かわいけりゃ正義だと思うなよ! 可愛くたって脚本が駄目なら台無しなんだよっ! あんな締めじゃ視聴者は納得しないんだよおおお!」

 以上ユイの熱弁でした。え? 何を言ってるかって?

 残念ながら、俺には殆どワカランです。教室にいつも通りユキと登校したらユイとマサヒロがアニメ談義してたというわけで。

「あのボールはなんだ! 絶対野菜じゃねぇよ、アレ! 切った断面図が、理科の教科書に出てきそうな地球みたいだったぞっ!」
 
 ……アレです。あの作品です。なんかもう一回視たんだろうね。

「そうだよな! 遠近感とか色々残念なことにもなってるよな」
「まったくだよ。一年に二作も作るからそういうことになるんだぜよ!」  

 ……ユイは、大変熱くなっております。扱いに十分ご注意の上、お召し上がりください。いや、食わねえけども。

「でも同じ年に作ったアレはよかったぁなぁ」
「たしかにベタだけど、手堅く王道で良かったよな」
「四文字アニメは名作、の法則だぬ」

 ……。

「そういえばなんだっけ? 同じ、絵が残念な奴で……ほら24話だけ絵が良かった……アレ」
「なんか日本の歴史上の人物の名前を、ローマ字読みしたタイトルだったよな」

 ……駄目だついていけねえ。と、思ったところでHRのチャイムが鳴った。



 いろいろすっ飛ばして昼食。つまらない漢文とか世界史の話を書いても何の意味もないだろ?
 今日は珍しく弁当があった。昨日俺が気配りしたおかげか、機嫌を良くした姉貴が――

「べ、べつにユウくんの為に作ったんじゃないからね! ただ余り物を入れただけなんだからっ」

 と、言われました。俺の反応はというと。

「……」

 と、するしかありませんでした。

「ねぇユウくん! お姉ちゃんの”つんでれ”どうだった!?」
「すごいよかったよ」

 もろ棒演技でそう答えた。

「ほんとう!? じゃ、じゃっ、次はヤンデレを――」
「あ、それはやめてください」

 蘇る記憶。暗い階段。折りたたみ式ナイフ。頸動脈。生首。nice bort.
 浮かぶのは、見るからに危ない単語のオンパレード。 
 ……絶対に、ヤンデレなんかにさせてたまるか。いや、増やしてたまるかっ!
 それに”つんでれ”の発音が微妙な時点の姉にやられてたら、プライド的にもたまったもんじゃない。

「あの……今日はお弁当なのですか?」

 姫城さん(さん付けで呼ぶことにした)が、話しかけてきた。

「あ、うん」

 何気なく答える。うーん相変わらず、どう見ても美人だよなぁ……本当に、あの行動が無ければ。清楚で美人なクラスメイトの一人だったんだがなぁ……
 
「あ、あの……」

 姫城さんがもどかしそうに、言い淀んでいる。どうしたんだろう。

「?」
「ユウジ様とお昼。ご一緒してもよろしいですか?」
「あっ、い――」

 はっ! 蘇る記憶。暗い階――大丈夫。姫城さんは、もうヤンデレじゃないはずだ。
 昨日のことで、悔い改めてくれたはずだ。いや、俺はそう信じたい、というか信じるぜ!

「ああ、いいよ」
「じゃあ、こちらに机に持ってきますから」
「悪いな」
「いえいえ、私からお誘いさせて頂いたので……こちらの机を拝借して」

 ということで俺の後ろの学食組の開いている席を使って、姫城さんと向かい合わせで食べることにした。
 ちなみにユイ、ユキ、マサヒロは学食組なので居ません。なんというタイミング。 
 俺は机に、所々擦れて傷がついた、平たいアルミの弁当箱を側の鞄から取り出す。
 そして向いの姫城さんはというと。机に、二段重ねの子ぶりなピンクのプラスチックの弁当を、持ってきた巾着袋から取り出した。

「お弁当はユウジ様が作っているのですか?」

 なんとも普通な質問。良かった、彼女はもう普通の女の子のようだ。

「いや……姉に作ってもらってるんだ」

 姉貴が、毎朝早起きして作ってくれる弁当を頂いている。そんな姉貴に改めて感謝。 

「そうだったのですか……」

 すると何故か姫城さんは考え込み始めた。……なんか「チャンスです」とか聞こえたが、気にせず弁当を俺は、開ける――

「ぶぶっ!?」

 俺の開いたその平たい弁当箱のご飯部分には驚きの展開が――

 『ユウくんLOVE』 

 ”はぁと”という効果音がピッタリな、ハートが桜でんぶで描かれ、そのハート下には”ユウくんLOVE”と文字で書かれていた。もちろん女性が書いたような綺麗な丸っこい字で。 

「(汗)」

 あれ、おかしいな。暑くもな
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