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【俺と物語と赤い服】 エッセイ 的な?

薄暗い部屋で眩い画面を睨む者が一人いた。時計の針が天辺を指すところだった。
矢印が画面を走りまわり、カチカチと反応の鈍いマウスを連打すると画面上にメモ帳が引き摺りだされる。
真っ白な背景には何百もの言葉が並べられ、それが文章となっていることが理解できた。
男の指がキーボードを叩けば新たな文章が生み出され、ただ一つのキーを押すだけで生まれた文章が消えていく。
言葉が幾度も並んでは消えていき、一つの文章となってはまた零へと戻される。
それが時計の短い針が一回りするまで続いた所、遂に彼の心の中で悲鳴があがる。

(あぁぁっー!! 何も思いつかねぇぇぇ!!!)

両手を上げて背もたれに寄りかかる。体重を掛けると背もたれがぎしりと軋むような気がして、慌てて背を離す。
そもそも自分はこんな夜更けに何をしているのだろうかと疑問に思う。
今彼が作っていたのは物語だ。小説、というにはあまりにも未完成な文章の集まりで、しいて言うなら落書きだ。
インターネットが普及し、己の個性を発揮する機会が増えた現代。ネットを通じて何かを発信する人が増えている。
不意の呟き、学校での活動、仕事の愚痴、楽器の演奏、遊びの実況動画まで何でもありだ。
その中で彼が選んだものは、文章を書くことであった。
本来ならば日の目を見ることのなかった物語を、ネットを通じて不特定で大多数の人々に見せること、それが彼の選んだ道だった。
けれど、それも今挫折しようとしている。

(あー、ホントに文章が思いつかねー)

文章が思いつかない、話が進まない。それは一丁前に言えばスランプというやつだろう。単に鈍筆なだけかもしれないが。
元々作文とかが苦手なタイプだった。感想文や意見書などなど、そういった考えを言葉にすることが下手だったと思う。
それを克服するためにもまずは文章に慣れようとして始めたのが理由だったはずだ。
決して文章力が上達したとは思わないが、けれど以前よりも慣れてはいるだろう。
ならば、これ以上物語を綴る必要もない気がする。

(もう寝ちまうかー)

そう思ったら後の行動は早い。シャットダウンのボタンに向かって一つクリックして、自費で買ったノーパソをパタンと閉じる。
ベッドに潜り込んで目を閉じれば、すぐに睡魔がやってきた。


草原の上に立っていた。青い空を白い雲が流れていて、遥か遠くまで世界が見渡せた。
目の前には、赤い服の少年がいる。彼を見た瞬間、これは夢だと悟った。
容姿は何てことはない平凡な顔つきで、少々茶色が混じった黒い髪を持ち、ぼんやりとした表情で正面を向いている。
性格はどんな感じだったか、思い出そうとすれば記憶の波が押し寄せる。

テレビゲームの中の世界に憧れていた、と思う。
それが果たして良いことか悪いことかは分からないが、自分もテレビゲームの主人公達のように生きてみたいと思っていた気がする。
けれど、それが無理なことだということは分かっていた。だから別の手段をとった。
自分で物語を作り、自分の分身のようなキャラクターをその物語に混ぜて、自分が憧れた生き方をさせることにした。
未知の場所を渡り歩く冒険者のような、誰かを守るために戦う騎士のような、難事件に挑む名探偵のような、とにかく色んな物語を作ったはずだ。
そして物語の登場人物として、分身として登場したのが、この赤い服の少年だった。

ああ、なるほど、そういうことか。

自分が時間を削ってまで物語を作る理由。
きっとそれは、酷く単純な言葉で説明できるだろう。


(ハッ! 変な夢見た!?)

目が覚める。天井は未だ闇に覆われて、顔だけ時計に向ければまだ日の昇らない時間帯だった。
今日は何の予定があっただろうかと考える。考えて、そういえば祝日だったと思い出す。
しばしベッドの上で茫然とするが、このまま眠りに落ちれる気がしなかった。
のそりとベッドから起き上がって机の前を横切ろうとして、ふとノーパソに目を向けて驚いた。
稼働中のランプがついていた。それはつまりシャットダウンできていないということであり、「あっ」と男は気がついた。

(シャットアウトのボタン押せてなかったのか)

男は机に鎮座するマウスパットを一睨みすると、再びパソコンを立ち上げた。
表示されたデスクトップを見て、右下の隅に表示している時間を確かめる。
少し悩んだが、ええい、と男はファイルから一つのデータを取り出す。
そうして再び薄暗い部屋の中、眩い液晶画面を睨みつけ、キーボードを叩いた。

赤い服の少年は、今日も物語を旅している。
12/10/20 03:39更新 / からん
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