少年は空がどこまで続くのか知らない。同じように大地の果てがどうなっているのかも知らない。
知っているのは空の向こうには光る星があることと、まっすぐに大地を進んでいけばいつか海という場所へ辿りつけるということだけだ。
何のへんてつもなく農村に暮らしている者にとって、村の外は未知なる世界だ。だから皆村の外へ出て行きたがらない。
けれど、周りの子ども達と比べて幾分賢かった少年には、村の外はまさしく未知の世界であり、憧れであった。
あの空がどこまで続いてるのか、大地の果てには何があるのか、海という場所は一体どんなところなのか。そして、なによりも少年が心惹かれた存在。
モンスター。
草原の住人、それを食らう肉食獣、縄張りを牛耳る獣の長、子守歌代わりに聞いた伝説の黒い龍。
ただ話を聞いただけではここまで惹かれなかっただろう。しかし、少年は空を舞う真紅の竜を見てしまっていた。いや、魅せられてしまっていた。
世界中を巡りたい、ただ少年はそう願った。
― MH An Outlaw Go to a Journey ―
人の喧騒が遠くから聞こえる。それはつまり人が集まっている場所から離れているということだ。
本来なら当たり前の言葉ではあるが、しかし彼らが立っている場所は街と街道の境目、街の玄関口であり通常なら訪問者によって長蛇の列を成す場所。
大きく口を開いた城門のど真ん中に彼らは居るのだ。
「正直、何と言っていいのか分からない」
堂々と車道の上(本来なら馬車や竜車が走っている危ない道)に突っ立つ者の片方がそう言った。
眉間にはしわが寄っており、その表情は百人が百人ともニガムシを噛み潰しているといった表現をするだろう。
「それじゃあ何も言わなければいいんじゃないか? お前の悩みは解決するし、オレはお前の小言を聴かなくて済む」
「そういう訳にはいかないだろ」
「そういう訳でいいじゃねえか」
ケケケ、ともう片方が聴く人が聴けば悪魔のようだといわれそうな笑い声をあげる。本当に楽しそうに笑うあたり、お互いに気を置かない間なのだろう。
それで毒気が抜かれたのか、ニガムシを吐き出すようにして息を吐く。きっと何を言っても無駄だと悟ったに違いない。
しかし、それでも息を吸ったことで気を取り戻したのか、キッと睨みつけるように腰に提げているそれへ視線を送ると、右手でそれを指す。
「それ、隊長の剣だろう、盗んでいく気か?」
「盗んでない、借りたんだ」
そういって深い青の色をした柄を叩く。澄んだ音が鳴るその剣からは、ただ音を鳴らすだけで気位のようなものを感じる。
実際、名剣といえるだけのモノなのだろう。現在進行形で盗まれようとしているが。
再び溜め息を吐こうとして、すんでで止める。お前は一々溜め息が多いのだと言われ続けているのを思い出したからだ。
それに、今日は友の出立の日なのだ。
「……やはりなんて言えばいいのかが分からない、せめて後一日時間をくれないか?」
「ハハッ、どうせ紙の束抱えて朗読し始めるんだろ? そしたら一瞬で爆睡していびきかいてやるぜ」
「お前ならやりかねないな」
ククク、ケケケ、と聴く人が聴けば悪の商談にしか聞こえないようなやりとりをする。本当に仲が良いのだ、この二人。
だからこそ、重要なことは一言でいいのだ。
「じゃあ死ぬなよ」
「精々生きるんだな」
そういって二人はすれ違う。片方は鎧に身を固めて夜明けの街へ、片方は剣を引っ提げうす暗い街道へ。
少年の旅は、こうして始まった。
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