ヒトの流れというのは非常に奇妙だ。ただ一人を対象にしても目的地へ行くのに右に左に曲がっては上ることも下がることもある。
それが複数重なろうものなら奇妙を通り越してややこしくなってくる。特にそれぞれの事情や性格が交わった状況では、個人の意思を貫くことは難しい。
だからヒトは時にその場に合わせた行動をとる。言い変えるなら場の流れに乗るともいう。
身も蓋も無く言うと考えるのが面倒くさいと、そういう思考に陥る者も少なくない。
「そんで? 今オレらってば何処に向かってんの?」
そしてアモスにとって今の状況がそうであるといえる。
「わたしの下宿先だよ、荷物とか武具とかそこに置いてあるから、それとわたしの名前はねー――」
そう言うのはこげ茶フードによって全く顔が見えないが、声からして恐らく少女であろうと推測される現在アモスを悩ませている厄介者だ。
彼女の正体はアモスの育て親が新たに育てた子どもであり、常識に照らし合わせると一応彼の義妹だといえないこともない。
しかもどうやらハンターを志しているようで、(一応)先輩ハンターであるアモスの教えを請いに彼の下までやって来たのだという。
そしてアモスにとって最も厄介なのが、それが育て親からの命令であることだ。
「ふぅん……ところでお前、道分かってんのか?」
「分かってるよ、あの大きな建物がそうだよ、それとわたしの名前なんだけど――」
少女の指差す大きな建物というのは、確かに目の前に見えていた。基本的にどの街も道に沿うように、あるいは建物に沿うようにして作られている。
商店が大通りにひしめくように、裏通りに閑静な住宅街が並ぶように、特に多くの人が集まるような大きな建物は道に沿って歩けば大体着くものだ。
そして、少女のいう大きな建物というのは、ヒトの流れが行き着く場所であった。
「………」
「えぇっと、ホテル『ディアプラス』ってここだよね?」
二人揃って見上げる下宿先。そこには、巨大な建物が立っていた。
Root.3 ―旧友―
ギルドの集会所まで徒歩数分、街で評判の料理店まで徒歩数分、竜車の乗り場まで徒歩数分、鍛冶工房まで徒歩数分、職人による見事な外観と充実の顧客サービス。
これがこの街最大の宿泊施設であり、ハンター、騎士団、貴族に金持ち御用達の超高級ホテル『ディアプラス』である。
「あの頭のネジの外れた奴らめ、どこにそんな金を隠し持ってた……」
ホテルのエントランス、あるいは玄関ともいうべき場所で一人アモスは呟いていた。
外観が豪華だから中も豪華かと思えば、ハンターや騎士団も訪れることを考慮したのか、エントランスは華美というよりも無骨な内装であった。
無論超高級というだけあって置かれているインテリアはどれも無骨なようで洗練された物ばかりであり、言うなれば一切の余計なものを削ぎ落とした機能美というやつである。
ピカピカ光り輝く豪華なホテルには嫌悪感を抱くが、こういった美しさには逆に好感を持つ。特にある程度汚されても構わないという姿勢がアモスは好きだ。
とはいっても、今の彼にそんなことを考える余裕はないのだが。
「なんでオレのとこに送りつけんだよ、オレがやんちゃする可能性とか考えてねえのかよ」
椅子に座って頭を抱える黒尽くめ。先にも言った通りこのホテルを利用するのはハンターだけではなく、一般の客もいる。
壁に立て掛けられた巨大な鎌に威圧されるようにアモスを避けていく人々がそこかしこにいる中、彼に近づいていく者がいた。
「よう、今日も見ているだけで暑くなってくるその衣装は絶対呪われてるだろうから今すぐ売り飛ばしてこいよソーぶふぉっ!」
「これで少しは涼しくなったか? ジョン」
「ジョンじゃねぇよ!?」
コップの水を顔に掛けられた男がそう叫ぶ。突然に起こったその一幕に彼らを見ていた者たちは皆呆然とした目を向けた。
「…………」
「おいこら、人に水かけといてなんの言葉もねえのか、その口は飾りか? うぉい」
「すまん、喋るワイセツ物とは話せない決まりなんだ、土に還ってくれ」
「いきなりツッコミどころが多すぎるわゴラぁっ!! あ、皆さんすいません、私どものことはどうかお気になさらずに――」
大声で怒鳴っては周りに向かって謝る姿を見て、相変わらず大変だな、とアモスはクーラードリンクを口に含みながら思うのだった。
一拍置いて。
「それで? お前がここに居るってことはアレを送って来たのもお前だな?」
「おお、そうだとも、村からここまで二人っきりの旅だ、羨ましかろう?」
そういって笑いかけてくるこの男、ハンターのような体つきに盗賊のような顔つきをしているが一応商人である。
竜車に乗って村から村へと行商をしており、荷台に余裕がある時は人を運ぶこともあるそうだ
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