森と丘。ギルドによって定められた狩猟場の名称であり、傾斜のある森林地帯は大抵この名で呼ばれている。
出現モンスターは小型の肉食竜から大型の飛竜まで様々なものがいるが、強力な個体が現れることが他の狩場と比べて少ないため新米ハンターが訪れることが多い。
そしてそれはまだ素人の域を出ない少女にとっても例外ではなく、訪れた目的もキノコの採取という簡単なものである。
ただし、その隣には一人で生態系を物理的に壊した男がいる。ある意味少女にとって一番の危険かもしれないが、特に何かが起きるわけでもなく普通に彼らは森へ入っていった。
森の中は鬱蒼としていた。所々段差があったり倒木があったりして中々歩きづらいが、迂回したり手を貸して貰ったりすれば大した障害にはならない。
先程も人の身長より高い段差を登ろうとして、アモスに押し上げられたところである。その時、思わず足を出してしまったのは仕方のないことだろう。
わたしは悪くない、と無数に生えているキノコの群れを見ながら呟く。そこには倒れた木を覆うように色とりどりのキノコが生えており、毒々しいものから真っ赤なものまで様々ある。
今回のターゲットは特産キノコという、その地方特有の気候で育った食用キノコである。ちなみに少女はあまりキノコが好きじゃない。
「……変なにおい」
特産キノコを手に持ってみて分かる土のにおい。少女とて土と無縁の暮らしをしていたわけではないが、けれどキノコのにおいは何かが違う気がする。
いや、それよりもあと十個以上特産キノコを集めなければいけないのだ。こんな無駄な思考をキノコに割いている時間がもったいない。
幸いというかさすが新米向けの依頼であるというか、キノコの見分け自体は難しくない。
さっさと無数のキノコの中から特産キノコを見つけてこんなキノコくさいところから立ち去ろう。そう思ってキノコを抜きに掛かった。
特産キノコを掴む、引き抜く。アオキノコを引き抜く、仕舞う。特産キノコ引き抜く、仕舞う。アオキノコ、仕舞う。毒キノコ、避ける。
特産キノコを、アオキノコを、キノコを、キノコ…………………………………。
ぐちゃっ!!
「はっ!? 今わたしは何を……?」
突然鳴ったキノコが潰れるような音にハッと我に返り急いで顔を上げる。今手に握られている紫色のキノコは潰れていないため、音を鳴らした者は別にいるはずだ。
音の鳴った方向には色鮮やかなキノコと倒木の上に鎮座する影があった。鋭利な爪によって無残にも潰されたキノコ達には少女は目もくれない。
そいつは、蒼い竜であった。全身を覆う暗い蒼は夜の空を連想させ、黒光りする爪は深淵を感じさせる。漏れる吐息は若干の熱を帯び、紫の瞳はただ一点を見詰めている。
時が止まったかのように向き合う一人と一匹。さりげなく少女の動きを観察していた黒尽くめの男即ちアモスも思わず固唾を飲んで見守っていた。
ゆっくりと少女の腕が上がる、蒼い竜に向かって伸びる。それを竜はじっと見つめたままに、しかし徐々に首を伸ばしだす。
腕はすぐに止まった。ただその手は竜の鼻息が届くほどに近く、何度か竜の鼻が目の前のそれを嗅いだような気がする。
そして、何かを訴えるように唸りだした蒼い竜に対し、少女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……どうぞ?」
「がうっ」
誰かが「あ」と呟くよりも先に蒼い竜の鋭い牙は、容赦なくその紫色の柔皮を貫き、その果肉を口内へ引き摺りいれ、そして発光した。
Ro.5 ―遭遇―
ドキドキノコ。個々それぞれが別の効能を持つとされるそのキノコは、たまに癒しをもたらし、たまに小腹を空かせ、たまに口に含んだ瞬間全身を電流が走ると噂されるキノコだ。
実際どういったメカニズムなのかは未だに判明しておらず、『謎茸』『超進化キノコ』『神の悪戯』『悪魔の果実(?)』など様々な仇名を付けられている。
ただ分かっているのは、人間が口にすれば何が起こるか分からない博打的要素を持ったキノコであるということと、それは竜にも当て嵌まるらしいということか。
少女とアモスの目の前には、全身から謎の煙を立たせながら地面に突っ伏す小さな蒼い竜がいた。時節ピクピクと足やら翼やらが動くので生きてはいるのだろう。
「どうしようか?」
「知らん」
少女の問いかけに投げやりに答えると、そのままアモスは何処かへ歩いて行ってしまった。このモンスターは危険ではないと判断したのだろう。
少しの間少女は考えに耽るが、ポーチの中から薄い緑色の液体が入ったビンを取り出した。
回復薬。全世界のハンター達に限らず、傭兵農民兵士商人旅人あらゆる人々の間で使われている治療薬である。
効能は軽い怪我を治す程度の力だが、戦場に身を置く者にとってバカにできない代物だ。なお、これの治癒力を高めたものには後ろにグ
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