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第1章 影と少年 V

行き交う人々で賑わっていた港町イーバオ。しかし、その面影はもはやどこにもなく、見慣れた顔の死体と瓦礫の山だけとなってしまっていた。ロインはそんな変わり果てた故郷を、暗い顔で黙って見渡した。

「くそ、酷いことしやがるな…。」
「子供もお年よりも関係無しだもんね。」

彼の後ろでカイウスとルビアがそう話す中、ロインはティマの姿を探し、変わり果てた町の中を歩き出した。

(ティマは「おばさん」の安否を気にしていた。だとすれば、まずはあそこに向かうはず。)

そう思ったロインが向かった先は、扉が破られた一軒の家だった。

「ティマ、いるなら返事しろ!」

ドアがあった場所をくぐり、家の中を捜索し出すロイン。すると、奥のほうからティマの声が響いてきた。

「ロイン?ちょっと来て手伝って。」

声のした先へ向かうと、そこは台所だった。ティマはそこの床に座り込んでいた。

「ティマ、何やってんだ!まだ残党がいるかもしれないってのに…」
「ゴメン。それより、ここ開けるの手伝ってよ。」

そう言って彼女が指差す先には、人一人が通れそうなくらいの大きさの扉らしいものがあった。どうやら地下に繋がっているもののようだ。ロインはわかったと頷くと、とってを引っ張り、扉を持ち上げようとする。だが、相当重量があるのか、びくともしない。

「こんな扉、おばさんどうやって開けたんだよ。」
「私に聞かないで。」
「まさか『あの力』でないと開けられなかったりして。」
「それなら、私にこの扉のこと教えたりしないでしょ?」
「お前、聞いたのに開け方知らないのか!?」
「そんなの聞いたことない!」

いつの間にか口げんかへと発展しているロインとティマ。そんな中、カイウスとルビアが二人の元へとたどり着き、再び困惑した様子を見せた。

「二人とも、一体どうしたの。」

ルビアが二人の間に割って入り、なんとかその場を治めた。そして事情を聞いた二人も、その扉を開けることを試みた。だが、カイウスにもその扉を開けることはできなかった。

「やっぱり、『あの力』じゃないと開かないのかな。」

カイウスでも扉を開けられない現実を目にして、ティマはそう呟いた。それを耳にしたカイウスは、思わず彼女に尋ねた。

「なんだ?『あの力』って。」
「えっと…『獣人化』って知ってる?『レイモーンの民』が持つ力なんだけど、それじゃないと開かないのかなって思って。」
「『獣人化』だって!?」

その言葉を聞いて、カイウスの目の色が変わった。

まさか、大陸の「リカンツ狩り」から逃れた者が、この地にも存在するのか。そして、ティマのいう「おばさん」がレイモーンの民で、その力を使わなければ入れない領域を作ったのだとしたら、この中で扉を開けることができるのは…

カイウスがそんな思考を巡らせていると、低く鈍い音が鳴り、あの扉が開いていた。それを成し遂げたのは、なんとルビアだった。

「ルビアさん、すごい!どうやったの?」
「えへへ。この扉、引っ張り上げるんじゃなくて、横にスライドさせるものだったのよ。色々試してみたら開いたの。」

得意げに話す彼女だったが、それを聞いたカイウスたちは、自分達の苦労は一体?とでもいうような表情をして苦笑いをするだけだった。

「とにかく、扉は開いたんだ。下りてみるぞ。」

そう仕切り直し、4人は暗い地下へと下りていった。
11/08/08 11:40更新 / ちよ

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