ユーリはヒスカらに引っ張られながら駐屯基地に戻った。直後、クレイはナイレンへ報告しに姿を消し、ロビーのソファでは、先ほどの乱闘で負った傷の手当てが双子によって行われていた。
「なんだよ!向こう治癒術使ってんじゃん!差別すんなよ!」
「うっせ!」
喚いているのは喧嘩を売りつけた張本人ユーリ少年。低いテーブルをはさんだ向かいの席では、フレンがシャスティルから治癒術による手当を受けている。対する彼は全手動。ヒスカは文句をたれるユーリを睨みつけ、足に負った大きな傷口に消毒スプレーを勢いよく吹き付けた。傷口は沁み、もちろんユーリは盛大な悲鳴を上げることとなる。
「痛かったら反省しなさい。」
ヒスカは悪びれもせずに乱暴な手当てを続ける。その姿は、日頃の生意気な後輩に対するうっぷんを晴らしているようにも見える。だが、当然ユーリはそんなヒスカに黙ってはおらず、すかさず文句を吐き出し、ヒスカもそれに負けないくらい、口答えする後輩に反省の態度を求めて口論を始めるのだった。
「フレンには少しは同情するわ。途中までだけどね。」
「はぁ…」
その隣で行われる丁寧な治療。特別、シャスティルの手当てが上手いわけではない。単にフレンの日々の行いが良いだけである。
「ね、あんた頭にも怪我してんじゃん。見せてみ。」
その時、シャスティルは彼の頭にできている怪我を見つけ、彼の頭を上から抑え込む形でその手当てを始めた。しかし、その体勢は図らずもフレンの目の前にその胸をさらすことになったわけで。顔を赤くするフレンはなんとか離れようともがいてみるが、おそらく彼女はそんなことに気づいていないのだろう、「うごかない!」と言いながら、より彼を引き寄せ、固定する形で治療を行い続けていた。
「だいたい、なんであんたみたいなのが騎士団に入ったのよ?」
その一方で、ヒスカはユーリへの手荒い治療を終えたようだ。救急セットを片しながら、そんな事をユーリに向かって聞いている。
「別に。他にやることもねぇし、給料だけはいいし。それに俺、強いもん。」
その問いに対し、特に最後の一言を自慢げに口にするユーリ。昨日の任務で、確かに彼が少しは強いことはわかる。だが、ヒスカはその態度にまた呆れた様子になった。
「つまりは、たいした目的もなくふらふらしてて、力を持て余してたってことです。」
「うるせ!」
そんなユーリに向けられる棘のある言葉。テーブルを挟んで正面から向き合い、シャスティルから解放されたフレンはユーリを指差しながら、ユーリは手当てを受けた左足を抱えるようにしながらいがみ始めた。
「昔のまま、何も成長してません!」
「お前もな!陰険な性格そのまんまじゃん!」
「…幼馴染?」
そんな2人を交互に見つめ、ヒスカがフレンを見て尋ねた。
「単に、帝都の下町で一緒に育ったってだけです。」
フレンはその言葉を否定するように返答した。ユーリも「そんなに親しい仲ではない」と言わんばかりに口を開く。
「お前が引っ越した時には、せいせいしたよ。」
「採用試験でユーリを見た時は、目を疑いましたよ!なんでここに!?」
「ま、お前の親父さんの影響があるかもな。良い親父さんだったよな。俺、両親いなかったからちょっと羨ましくってさ。」
その言葉は、それまでの嫌味の含んだ言い方ではなかった。むしろ懐かしそうに、どこか惜しそうに、ユーリは両腕を頭の後ろで組んで言葉を続けた。だが、彼がフレンの父について口にした途端、フレンから勢いが消えた。
「…父の話は止せ。」
それまでとは違う、曇った表情と声。顔をそむけ、静かにユーリに言った。その様子にユーリは首を傾げ、疑問を抱いた瞳でフレンを見る。
「そこの四人。それ終わったら、隊長の部屋へ行け。」
その時、廊下の角から顔を覗かせ、エルヴィンがユーリ達に声をかけた。
「カンカンだぜ〜?」
そして最後に口元を緩ませながら、少し余計な一言を残して姿を消していった。
「何でだよ!何も悪いことなんてしてねぇだろ!?」
「あんたね!ここは騎士団なのよ!規律ってもんがあんの!あ〜〜、もう!あんたらへの監督能力が問われる〜!!」
頭を抱えながらそう叫ぶヒスカ。頭が痛いとはこのことだろうと、彼の教育係になってから何度思ったことだろう。しかし、ぼやいたところで何も変わらない。意を決して、隊長のもとへと向かうのであった。
「酒場で乱闘なんて、ベタなことしやがって。」
隊長室で4人を向かえたのは、欠伸をしながらそう切り出したナイレン、そしてその横に静かに立つクレイの2人だった。エルヴィンの言葉とは違う、さほど緊張感のない空気が隊長室を包んでいた。それでも、ユーリを除く3人は、申し訳なさそうな顔をしてナイレンの前に並んでいる。
「町の外はめ
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