「さぁみんな、着いたわよ!」
ハリエットは両手をいっぱいに広げながら、皆の方へと振り返った。
今日は待ちに待ったピクニックの日だ。シュヴァルツの一件以来、仲間はそれぞれの為すべきことをするために散り散りになり、今日のように全員一緒に集まれる日はあまり無かったのである。
こんな風に集まれる日は決まって皆でピクニックをし、改めて親睦を深めあったり近況報告などをしたりしているのだ。
そして今日のピクニックの場所は、ここだけにしか咲かないと言われている特別な花が咲く丘の上だった。
そこはハリエットの父であるウィル・レイナードと、今は亡きハリエットの母アメリア・キャンベルの思い出の場所でもある。
「俺も久しぶりに来てみたけど、やっぱりここの景色は壮観だな」
「とっても綺麗だね、お兄ちゃん」
セネルは丘の端の方まで歩き、花だけでなくそこから見渡せる青々とした広大な海を眺め、それにシャーリィも付き添ってセネルの思いに共感している。
そんなロマンチックな風景を台無しにするかのように、一人の男性の腹からグゥ〜と大きな唸り声が上がった。
音の発信源である人物を横目で見ながら、小さな少年が口を開く。
「・・・モーゼスさん、風情って言葉知ってますか?」
「そ、そうは言ってものうジェー坊・・・もう昼時じゃし腹が減るのも仕方ないじゃろう?」
昔と変わらないやり取りをするジェイとモーゼスを見て、ウィルはため息を吐きながらクロエとノーマに声をかけた。
「全く、しょうのない奴だ・・・クロエ、ノーマ。すまんがマットを敷くのを手伝ってくれ」
「了解だ」
「あいよー」
3人で協力しながら大きめのマットを芝生の上に敷き、8人でぐるりと円になるように座ってバスケットの中から様々な種類のパンを取り出した。
これはシャーリィとクロエとハリエットが朝早くから用意してくれたもので、それに感謝しつつ皆それぞれ好きなパンを口に運ぶ。
「くぅぅ〜、うまっ!このメロンパン生地がサクサクだよぉ〜!」
「やっぱりあんパンは粒あんに限りますね・・・」
「ねぇ、おいしい?パパ」
「ああ・・・上手いぞ」
ノーマとジェイがおいしそうにパンをほおばっている中、ウィルはハリエットの作ったサンドイッチを難しい表情で食べ続けていた。
ハリエットは料理が下手なのだが、皆が気遣いからその事実を言わないので未だに自覚していない。
そして、実の父親の発言に満足したハリエットは、先ほどお腹を空かせた発言をしたモーゼスに自作のパンを数個手渡す。
「はい、モーゼス君。お腹すいてるんでしょ?ハティのパン、いっぱい食べていいからね!」
「お、おぉう・・・あ、ありがとのう・・・」
何とも形容しがたいパンを両手で持ち、モーゼスは頬をヒクつかせながら見つめている。
ハリエットのにこにことした笑顔を見ていると‘これ何パン?’とは聞きづらく、食べずに済むような言い訳を考えようとしたが、ウィルがこちらを凄い目つきで睨んでくるので、それも出来なかった。
「(えぇーい!なるようにならんかい!)」
とうとうモーゼスは観念し、バクッと大口でハリエットのパンを平らげてそのままゴクンと飲み込んだ。
すると、見る見るうちにモーゼスの顔が青ざめていき、たまらずモーゼスは立ち上がってその場を走り去っていってしまった。
「ヒョオオオォォォォォォオオオオオ!!」
「もー、慌てて食べなくてもいいのに」
「(哀れだ、モーゼス・・・)」
全員での食事を楽しんだ後はしばらく景色を眺めたり、そこらにある草花で冠を作ったり、ちょっとしたゲームや日なたでの読書をしながら過ごしていった。
そうして、いつのまにか辺りも暗くなり、それぞれの帰る場所へと別れていき、ウィルとハリエットも自分たちの家の帰路についていた。
「パパ、今日は楽しかったね!」
「ああ、そうだな」
「あ、でも・・・」
笑顔で後ろ向きに歩いているハリエットだったが、急に何かを思い出したかのように顔をうつむかせると、不思議に思ったウィルは‘どうした?’と尋ねる。
「ママもいたら・・・もっと、楽しかったのかな・・・」
「ハリエット・・・」
はっ、とハリエットは顔を上げると、ウィルを困らせてしまった事に気付き、慌てて話題を変えようとした。
「あっ、そ、それよりもね、パパ。これ、見て見て!」
「な、なんだ・・・?」
ハリエットはウィルの手を引っ張って家の庭まで連れて行く。
そこには小さめの木の板が立てかけられており、それと向き合うようにハリエットは立ち、腰に手を当てながらウィルに顔だけ向けた。
「今からハティがすっごいの見せてあげる」
そう言うと、ハリエットは正面にある木の板に向けて手をかざし、目を閉じて神経を集中させると、突如ハリエットの爪が光りだした。
「
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