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旅人探し 〜アビス編〜

昔の事は、よく覚えてない。
どうしてここにいるのか、どうやって生まれたのか、何のために僕は存在しているのか・・・全てが分からなくて、全てがどうでもよかった。
ただ、そんな僕の運命を、彼女はいとも簡単に変えてくれた。

──フローリアン。この子の名前は、フローリアン。

その瞬間から、僕は僕としての一歩を踏み出すことが出来たんだ。

☆     ★     ☆

「あっ・・・」

扉の外で、話し声が少年の耳に入り込んだ。
今か今かと待ち望んでいたその幼い少女の声に、少年は早く会いたいという気持ちを抑えきれず、読みかけの本を放り出して乱暴に扉を開けた。

「アニスっ!」
「はうあ!?」

アニスと呼ばれた少女は驚いた声を上げるが少年を確認すると、特徴のあるツインテールを揺らしながらすぐに柔和な表情を浮かべる。

「久しぶり、フローリアン!良い子にしてた?」
「うんっ!」

元気な返事をするフローリアンの傍で、先ほどまでアニスと会話をしていた長身の男性が跪きながら頭を垂れた。

「導師フローリアン様。この度、我がマルクト軍は預言の管理状況、及び街の安全確認のための視察へと参りました」
「あ、ジェイドも!話は聞いてるよ。それで、何日くらいここにいるの?」
「業務が済み次第ですから、4日間ほどを予定しております」

その言葉を聞くと、フローリアンは目をキラキラと輝かせてアニスの腕を引っ張った。

「じゃあアニス、それまで遊んで!ほら、こっち!」
「へっ?ちょ、フローリアン、私も少し仕事が・・・!」
「いいじゃないですか。行ってらっしゃい、アニス」

アニスはジェイドを見やると、いつもの口元だけの笑みを浮かべていた。

「こんな機会中々ないですからね、アニスの今日の分の仕事は私が──」
「大佐ぁ・・・!」

代わりにやっておいてくれるのかとジェイドの言葉に感動しかけたその直後、メガネの奥の瞳が怪しく光りだしたのをアニスは見逃さなかった。

「──明日に上乗せ出来るようスケジュールを組み直しといてあげますから♪」
「・・・大佐のばかぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!」

半ば引きずられるような形で涙目のアニスはフローリアンと共に消え、それをジェイドはハンカチを振りながら笑顔で見送る。


ヴァンの引き起こした事件から2年後。
世界は再生の道を進んでいたが、プラネットストームの停止による譜業機械の停止、譜術の弱体化などの問題があり、まだまだ時間を要するようであった。
その間にフローリアンは第七音素(セブンスフォニム)の素質を買われ導師の任に就き、トリトハイムのサポートもあって何とかやっていけているようである。
本来ならば、導師とは現職の者が後任にする惑星預言の読める人物を育成し、その上でダアト式譜術を受け継がせるのだが、前導師であったイオンが急死してしまったため今回は特例中の特例という事で第七音素能力が最も高かったフローリアンが選抜された。

初め、イオンと瓜二つの人物が登場した事によってダアトの市民は不信感を抱いていたが、レプリカの存在を知ってしまった人々はフローリアンの存在を容認するのにそれほど時間はかからなかったようである。
何よりフローリアンの市民に対する優しさと無邪気さから、不満なく受け入れられていったのが一番の要因だった。
そんなフローリアンは本日ダアトにマルクトの軍が視察に来るということを耳にし、久しぶりにアニスに会えると胸を躍らせていた。
彼にとって彼女は自分に名前を、意味を与えてくれた何にも代えがたい存在であり、随分と慕っているようだ。

そして現在、アニスはフローリアンに連れて行かれて気ままな一日を過ごしていた。
何だかんだで楽しんではいたが流石に一日中アニスを拘束するわけにはいかず、夕方になる頃には解放され、明日に回される分の仕事を少しでも減らそうと自室で職務に励んでいた。

一方フローリアンも、導師としてまだまだ未熟であるため、夕食を食べて入浴を終えた後は導師の部屋で勉学に取り組んでいる最中だった。
そうこうしている内に夜も更けた頃、本の中にどうしても読めない字があったのでアニスに聞きに行こうかと部屋を出た。


「えーっと、こっちの方だったよね」

道中出会う人たちに挨拶をしながら、フローリアンは廊下をぱたぱたと走る。
やがて一つのドアの前に辿り着き、ノックをしてからそーっと扉を押し開けた。

「アニスー・・・?」

アニスは両親と同じ部屋に住んでいるが今は両親はおらず、アニスだけが一人で机に突っ伏している状態でいた。

「すーっ、すーっ・・・」
「(寝てる・・・のかな?)」

恐らく昼間に遊んでいたせいもあってか、業務の途中で疲れて眠ってしまったのだろう。
とりあえず起こさないように近くにある毛布でも掛けてあげようと近寄ると
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