「蒼破刃!」
「甘いっ!」
ここは、ノイシュタットという街のちょうど中心辺りに位置する闘技場。
この闘技場では毎日多くの客が押し寄せ、ある者は観戦を楽しみ、またある者は参加して腕試しをするなど非常に賑わっている。
他に娯楽の無いこの街にとって、闘技場はもはや一つの名物となっていた。
そして今日も、闘技場内は異常なまでの熱気と歓声で埋もれている。
「逃がすか!蒼破追蓮!!」
「くっ・・・!」
それもそのはず、今日は闘技場のチャンピオンであり英雄スタンの姪でもあるリムルと、英雄スタンの息子のカイルとのバトルが行われているからである。
共に英雄の血を受け継いだ者同士、どちらが勝つのかと皆が皆二人に注目している。
始まってから互いに激しい攻防を10分以上続けており、そろそろ決着がついてもおかしくない頃合いだった。
「このっ・・・ふっ、はぁっ!」
リムルはカイルの追撃によって体勢を崩されてしまい、格闘で何とか反撃に転じようとしていた。
主にリムルは剣を使うが、技こそ無いものの実戦レベルの体術も心得ており、いざとなったら剣が無くともまともに戦うことができる。
「うわぁ!」
突然の素早い打撃の連携にカイルはひるみ、強力な足技をくらって吹き飛ばされてしまう。
「──デルタレイ!」
「ぐあっ・・・!」
続けてリムルは手の平を前に突出し、カイルに向けて下級の昌術を撃ち込む。
リムルは雷系の技や術を多数持っているが、あえて他の属性の術技は習得しようとしない。
これは、リムルの母親──スタンの妹であるリリス──が雷系の技を得意としているのと関係しており、リムルは生まれつき雷系の術技に長けている。
するとある時‘だったら他の術技は覚えずに一つの属性を極めよう’とリムルは思い、ひたすら修練を積んだ結果、違う属性の術技を使えない代わりに先ほどのデルタレイを放った時のような高速詠唱を可能とした。
技の方も他の者が使った時より威力が強かったり、衝撃波が大きかったりなど、リムルだからこそ為せる芸当であった。
そしてリムルは倒れこんだカイルに向かって、腰の後ろに挿してある剣を引き抜きながら駆け寄った。
「これで終わりよ、カイル!」
リムルは剣を上段に構え、一気に振り下ろした。
「(やった!これで、これで私は──!)」
と思った瞬間、カイルから爆発的な光が発せられ、リムルは剣ごと吹き飛ばされてしまう。
「きゃあっ!?」
「ここまできて・・・負けられるもんかぁ!」
何とか起き上がってカイルを見ると、不思議なオーラをまといながらこちらに剣を構えて突っ込んでくる。
そしてカイルが連続で剣を振るい、リムルはそれを受け止めるも衝撃が重く、腕が痺れてしまって次への行動が遅れる。
「見せてやる、一子相伝の技を!」
「(まずい!回避・・・いや、防御を・・・!)」
時すでに遅く、カイルの剣はリムルを完璧に捕らえていた。
「くらえ!斬!空!・・・天!翔!けぇぇーーーーんッ!!」
「きゃあああああああ!!」
カイルはリムルに四つの斬撃を見舞ったあと、飛び上がりながら最後の一撃を放つ。
直撃を受けたリムルはその場に仰向けでダウンすると、闘技場の司会者が高らかに声を上げ、会場も観客の声でいっぱいになった。
『決まったぁぁーーーー!!なんと!敗れたのはチャンピオン!チャンピオンリムルだぁ!!』
「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」
怒号のような歓声の中、カイルはリムルの傍へと歩き、そっと手を差し伸べた。
「ありがとう、リムルさん。すっげぇ楽しかったよ!」
「・・・まさか、私が負けるなんて思わなかったわ」
差し伸べられた手を掴み、体を起こして服に付着した土などを払っていると、またもや司会者の声が響く。
『いやー、流石は世界を救った英雄スタンの姪と息子のバトル!正に素晴らしい戦いでした!』
「っ・・・!」
その言葉を聞くと、リムルは嫌な顔をした。
リムルの変化に気付いたカイルは‘どうしたの?’と尋ねると、リムルは寂しげに首を振った。
「ううん、何でもない・・・ねぇ、カイル」
「なに?」
「私、強くなって帰ってくるわ。そして、いつかそのチャンピオンベルトを返してもらうからね」
「・・・うん、分かった」
ベルトを手渡し、最後にカイルと握手を交わすと、リムルは未だ歓声の止まぬ会場を後にする。
不思議と悲しそうな背中をしていたリムルが気になったが、カイルはただ黙って見送ることにした。
「・・・よし、こんなもんかな」
その後、チャンピオンの座を下ろされたリムルは強くなるために旅に出ようと考えた。
荷造りを終え、船に乗ってノイシュタットの街を出る。
客室に荷物を置いて、船の甲板に出たリムルは海を見つめてこの苛立つ気持ちを抑えようとしてい
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