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 そんな寒気のする言葉にも、朔夜の表情はいたって落ち着いたものだった。彼は握っていた手を開いて石を見る。石は相変わらず妖しい光を放っていた。
 そして確認するように朔夜が将守に石を見せて首を傾げる。
「貴方は、コレが何か分かっていると?」
 試すような声音に返って来た声は、主の不機嫌さを色濃く映し出していた。
「嫌なほどね」
 区切って、将守は腕を組む。
「ソイツは――さっきお兄さんが追い払っていたような――妖を惑わし、人を殺す。常世(とこよ)と現世の境界を破壊しかねない、危険な代物だ」
 その言葉に、朔夜はにこりと美しく笑った。人を魅了する笑顔と言って良い。
「分かってらっしゃるようで安心しました。ご推察の通り、殺生石の欠片です」
 殺生石、その単語を聞いて将守の眉間に深い皺が刻まれた。
 殺生石とは那須野――現在の栃木に存在する溶岩の事を言う。周囲に硫化水素等の有毒ガスが噴出しているため、生き物を殺す石として知られるようになった。
 だが、朔夜の手に持っている殺生石はそれとは話が違う。狐の美姫が、恨みでもって生み出した魔石。玄翁和尚が砕いた石だ。
「臨――」
 言いながら将守は印を組む。その様子に驚いたように朔夜が一歩さがった。
「兵闘者皆陣列前」
 素早く唱えて印を組み替える。その速さときたら朔夜も目で追いきれない。
「行」
 唱え終わると青い氣が将守から溢れ、それが立方体へと形作られる。その立方体の檻はある時点で巨大化し、二人を包んだ。
 その様子に朔夜は口をあんぐりと開け、ハッと気付いて将守を見る。印を崩すと、将守は額に汗を浮かべながらも笑った。
「これで準備は出来た。さあ吐け」
 強制するような低い声音で言われて、朔夜が苦笑いを浮かべる。
「九字の結界ですか。そこまでなさらなくても良いのに」
 その言葉に結界を張った張本人は不機嫌に顔をしかめる。その様子を気にした風も見せずに、朔夜は笑んだ。
「まあ、見ていてください」
 そう言うと、彼は石を握り締めて目を伏せる。やった事は、確かにそれだけのはずだった。
「はい、どうぞ」
 数秒と経たずに目を開けて、朔夜は将守に石を投げた。慌てつつも、将守は石を受け取って太陽にすかす。石は、水晶の如く陽光を通し、かすかに青い光を放っていた。
 その石の変化に、将守は瞠目する。
「浄化……された?」
 石は先ほどまでの禍々しさは無く、ただ純粋で清浄な光をたたえていた。
 将守の言葉に朔夜は一つ頷くと、苦笑する。
「生まれつきの異能でしてね。もうその殺生石は悪さが出来ませんよ。毒を封じましたので」
 言いながら朔夜は結界の縁まで歩いていった。隅まで来れば、空気しかないはずの場所に青白い壁がうっすらと見える。その壁を透かして通れないかと朔夜が手を伸ばすが、ガラス窓よろしく手をつけられるだけだった。それに少し残念そうに朔夜が笑う。
「何者だ?」
 ひとしきり石を見終えた将守が、厳しい顔つきで問うた。その声にくるりと振り返って、朔夜は人好きのする笑みを浮かべる。
「さて、貴方が何者なのかを教えてくだされば、こちらもお教えいたしましょう」
 遠まわしに『否』と答えられて、将守は朔夜を睨んだまま考え込むように顎に手をやった。脅して聞いても体力がなくなるだけで効率はよくない、と考えたらしい。
 将守は搾り出すように言葉を紡いだ。
「殺生石を探している」
 言いながら、将守は朔夜の変化を伺う。だが、朔夜に変化は見られない。舌打ちをして、視線を外しながら将守は続けた。
「江戸にない殺生石は関係ない。だが、江戸にある殺生石は困るんだよ、俺にとっちゃな」
 半ばやけくそ、と言わんばかりに大声で言った将守の様子に、朔夜がびっくりしたように目を丸める。将守が視線だけ朔夜の方へと向けると、低い声で静かに問うた。
「風水は分かるか?」
「風は氣を散じ、水は氣を留める……でしたっけ?」
「わかってくれているようで、非常に嬉しいぜ」
 酷く乾いた笑い声を付け加えて、将守が言った。どう見ても嬉しそうとは言えない疲れた表情で。
 その様子を見つつ、朔夜は顎で将守に先を促す。将守は渋々といった風情で頭をかいた。
「江戸は京の都を模し、かつ改良した風水の街だ。寺、川なんかは氣を集め、循環させるために計算して設置してある。だが、殺生石がそこにあると――」
「集めた氣が殺される?」
「ご名答」
 言いながら将守が右手に持った石を遊ぶように投げる。石が重力に従い下に落ちれば、それをまた将守の右手が掴む。
 将守が苛立っている気配を感じながら、朔夜はその先を続ける。
「でも、今のその石に、氣を殺す力は無い」
「全くもって、不思議な事になぁっ」
 怒鳴りながら、将守は朔夜に石を投げつけた。唐突に投げつけられた石を、それでも朔夜は落
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