「寝てたんだ……」
テーブルにつっぷして眠っていたスコールは、周りが暗くなっているのに慌ててランプに火をつけた。
二階建の家に今の三人で住み始めて三年ぐらいか。
スコールにとっての世界は、かつて姉のエルオーネとキロスの二人だけだった。それより前の記憶はおぼろげで、でも花を摘んでは家に飾っていたのは覚えている。それより前は母である人と二人で暮らしていたらしいのだが、エルオーネとの日々こそが彼にとっての基盤である。
それが、ある時キロスが出て行き、代わりにラグナが住むようになった。
本当のお父さんが来たんだから――それを理由に出て行ったキロスが理解できず、ラグナには現在進行形で当たり散らしている。
本当は四人を想定して作られた家だとは、スコールも何となくわかっていた。
一つだけ使われない部屋――あそこにスコールの母がいたらしい。そこだけは聖域の様にそのままになっていて、けれど結果としてこの家は静かに――ラグナがいるためならなかった。ラグナが三人分ぐらいはにぎやかにするため、スコールもさして「寂しい」と思った事は無い。
それ故に、人の気配の無いこの状況はスコールにとってはとても珍しい物だった。
外のベルがなる音とともに、扉が開かれる。その音に頭をあげて、スコールは玄関へと走った。
「お姉ちゃん?」
女性の人影に思わず問いかけたスコールだったが、その表情がすぐにしかめられる。そこにいたのは、青い服の森の魔女だった。
予想していた人物ではなかった故の落胆を隠せず、スコールはつっけんどんに魔女に返す。
「アンタか。お姉ちゃんも親父も帰ってきてないぞ」
そして魔女を見て、スコールは目を見開く。魔女が、泣いていた。
「スコール……」
スコールの頬に手をやってひざまずくと、彼女はスコールを抱きしめた。
「な、何するんだ!」
慌ててスコールが彼女を引きはがそうと動く。
「スコール、落ち着いて聞いてちょうだい」
「……ッ! 聞きたくない!」
スコールの心を、黒いものが徐々に浸食していく。それは、魔女が言葉を発すれば発するほど埋め尽くされそうで、スコールは目を瞑って両耳をふさいだ。
「スコール!」
「イヤだ! お姉ちゃんと親父が帰ってきてからにしてくれ!」
「スコール!!」
魔女とは違う呼びかけに、スコールは目を見開く。
「キロス……」
魔女の肩越しに、見知った色黒の男が居た。
キロスはそっとスコールの両手を外し、頭を撫でる。
「ちゃんと聞くんだ」
彼にそう言われてしまえば、スコールはそれ以上抵抗できなくなってしまう。スコールにとって、キロスは親同然なのだ。
しかし、魔女の言葉はスコールの胸を貫いた。
「スコール、二人は……帰ってこないわ……」
――黒いものが、どろりと体から湧き出る。
「なに……言ってるんだ……?」
――その黒いものは、宝石で飾られた記憶を何も見えない漆黒へと染めて行く。
「スコール……」
――記憶を、大切なものを繋ぎとめようとそれを握りしめるのに、記憶は黒くなっていく。
「そんな事、ない……二人とも、俺を置いていくなんてありえない……」
大きく見開かれた瞳から涙が一すじ、スコールの頬を伝う。
「だって、あんな、ウザいぐらいにまとわりつく親父とか、いつも一緒だったお姉ちゃんが、置いていくなんて……ない……」
――あぁ、あの時も月がいやに綺麗だった。
「ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだ!!」
「スコール!」
「ウワァァァァァァ!!」
――大切なものは黒く染まった。
「では―――ネは――」
キロスの声が、とぎれとぎれにスコールの耳を揺らす。
ふかふかとした感触に、どうやらスコールはベッドに運ばれたらしい、と彼はあたりをつけるが、どうしてこうなっているのかわからない。
「――の所―――き―――だけど――」
魔女の声が聞こえる。けれど、そうしてうちのベッドの近くに魔女が居るのか分からない。
少しだけ彼が目を開くと、魔女と目があった。
「スコール……」
「俺、どうして……?」
「大丈夫、今は何も考えないで」
「俺――」
言おうとして、魔女がスコールのまぶたに手を当てた。
「おやすみ、スコール……《彼の者に眠りを――スリプル》」
安らぎのまどろみの中で、嵐の後には晴天が来るのだと、何かが彼に囁いた。
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