美しい石畳の道に、小さな男の子が踊り出す。
ヨーロッパ風の町並みの中に、黄色のシャツを着た茶髪の少年はよくなじんでいた。
そして彼は自信満々に周囲に宣言する。
「エルおねえちゃんを探すんだ!」
彼の目的である。
それに遅れて一人の男性が走って追いかけてくるのに気づき、少年は森に向かって走り出す。それを見つけて、男性が大声で少年に向かって呼びかけた。
「だから、エルは仕事に行ってるって言ってんだろうが!」
少年が聞いている気配はない。
それにがっくりと肩を落とし、長い黒髪の男は嘆いた。
「ったく、誰に似たんだか」
「安心しろ、アレはお前に似たんじゃない。母親だ」
そう言って彼の肩をたたきながら慰めたのは、浅黒い肌の同年代の男性。特徴的なドレッドの男――キロスの指摘に、黒髪の男――ラグナは顔をしかめた。
「レインはもっとおしとやかだろうが」
自分の伴侶の悪口にとれる言葉は、ラグナにとって許容できなかったのだろう。不満げにラグナが言うと、キロスは呆れたように息をついて首を振る。
「どこの誰の話をしている。お前がエルオーネを取り返しに行った時も制止するのが大変だっただろうが」
「あぁ、ね」
自分も一緒に探すんだ、と身重にも関わらず主張する奥さんの姿は、悲しいほど彼の記憶に刻み込まれている。
なるほど、自分の一人息子――スコールは彼女によく似ていた。
しばらく走っていたスコールは、後ろから父親が追いかけてこないと見ると息をついた。そして周囲を見回す。気がつけば、森のそれなりに奥の方まで来ていた。
姉であるエルオーネが森の奥の教会に行っていると聞いて、彼は会いに行きたくなったのだ。
子供の頃からずっと一緒にいた姉は、父が帰ってきたのを境によく家を留守にするようになった。それが彼には寂しくて、そして自分はもう何でもできるのだと証明したくて幾度と無く脱走を試みている。
しかし、いつもエルオーネが教会にいる時間帯に彼女に会うことはできず、彼女がスコールを迎えに来て一緒に帰るというのを繰り返しているのだ。
――今度こそエルお姉ちゃんに会うんだ!
決意を新たに、スコールは歩き出す。しかし、予想外に早く変化は現れた。
「茶髪の美人さん。あなたがスコールだね」
スコールが振り向くと、黒い艶やかな髪の女がいる。水色の袖の無い上着に、動きやすそうな短いスカートの彼女は、スコールと目を合わせて柔らかく微笑んだ。
「アンタ……誰?」
驚いていてもそれが表情に伝わらないスコールだが、それでも瞳だけは動揺で揺らぐ。それに気づいたらしい女は、楽しげに声を出して笑った。
「エルオーネから伝言を持ってきた魔女ですよ。今日は夕方には戻るから、良い子で待っててね、だって」
「魔女の言う事を聞けって言うのか?」
むっとした表情でつっけんどんに返すと、魔女はケラケラ笑いだした。
「そうねぇ。私、悪い魔女だから言う事聞かないとエルオーネを食べちゃうかも〜」
言いながら、魔女は両手をわきわきと動かしてスコールを脅かす。それに気おされて、スコールは思わず後ずさった。
その様子を見てピタリと魔女は動きを止めて目を丸め、次いで歯を見せて笑いながらスコールに抱きついた。
「ハハッ! 冗談だよ。可愛いなぁ!」
犬にでもするように頭を撫で始める魔女に、スコールは顔をしかめて両手で彼女から逃れようとする。
「くっつくな!」
怒鳴ると、魔女はおとなしくスコールを開放した。そして立ち上がると彼の頭を優しく撫でる。
「ふふ、エルオーネを迎えに来るのも、遊びに来るのもいつでも良いよ。けれど、新月の日は遠慮してね」
「どうして?」
スコールは見上げながら魔女に問う。それに、イタズラするように笑った魔女は、人差し指を口に当てた。
「乙女の秘密は、口にして聞かないのがエチケットよ。わかった? 少年」
軽くデコピンをされて、痛みでスコールは軽く目を瞑った。そしてもう一度目を開いた時には、魔女の姿はどこにも無かった。
やむなくスコールが家に帰ると、洗濯物を取り込んでいた父親と鉢合わせした。
「お? 珍しく早く帰ってきたな」
少し嬉しそうに言う父親に会わせる顔がなく、スコールはついと視線を逸らす。そしてそのまま二回へと駆けた。
それに慌てた様子で父親はスコールに声をかける。
「俺は男同士だから良いけどな。エルにあんまり心配かけるなよ?」
その声を聞きながら自室のドアを閉じ、鍵を閉める。
――どの口が言う!
怒気を込めてスコールはベッドの枕を壁にたたきつけた。
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