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chapter3: 回想-2




「こんな所で何をしているんだ?」

 庭の木の上で寝そべって本を読むスコールに、浅黒い肌の男が声をかける。
 特徴的なドレッドのその男を見下ろす形で一瞥すると、スコールはいつも通りひと言で返答する。

「別に」

 無表情に本を読み進める少年にため息をつき、男は木に寄りかかった。

「またラグナくんとケンカか」

 遠くでスコールを呼ぶラグナの声がするが、一向にこの場所に気づく気配はない。

 ラグナは元軍人であり、この男――キロスは現役の軍人である。
 かつては小隊を指揮する立場にあったラグナだが、スコールの母を伴侶とするにあたって軍を辞めている。それ以降、ラグナの腕ががくんと落ちた――そういう訳ではない。
 どうもラグナ・レウァールと言う男は、家族に対しては持ち前の野生の勘が働かないらしい。誘拐されたエルオーネを探して彷徨い、挙句エルオーネは自力で脱出して途中で引き返したキロスに拾われたという経緯がある。保護者と被保護者としての関係が、本人努力に反して逆転することも多々ある。
 故に、ケンカして外に出て行ったと見せかけた息子に見事に撒かれ、明後日の方を探している。
 なお、ケンカの原因はキロスにとってはよくわからないが、ラグナのうるささによってキロスがこの場へやってきたのは確かだ。

 ふと、視線に気づいてキロスはスコールに目をやった。

「どうした?」

 スコールはじっとキロスを見ている。

「キロスが俺の親父だったら良かったのに」

 呟くように言われた言葉に、キロスは笑った。

「そうか? 私はラグナくんのように遊んだりすることは苦手だぞ」

「尊敬できる」

 即答するスコールに、キロスはさらに笑い、そして咳払いする。

「なるほど。ラグナくんは確かに父親としての威厳とかは微妙だな」

 現在も遠くからラグナがスコールを呼ぶ声が聞こえた。

「お姉ちゃんと一緒の時なんか特にヘタレだ」

 ため息とともにスコールは読み終わったらしい本を閉じ、木の上で器用に仰向けになる。その心底困ったようなため息に笑いながら、キロスは手を振った。

「そうだな。だが、アレは昔からだから治しようがないぞ」

 それこそ、スコールが生まれる前から――その言葉は口に出さずに、キロスは肩をすくめる。そして、唐突にスコールは口を開いた。

「一緒に住んでくれないの?」

 寂しさがわずかに混じる声――キロスは苦笑と共に首を振る。

「私にも一応仕事があるからな。ラグナくんが行方不明だった頃と同じではいられない。ウォードも心配だしな」

 ラグナがエルオーネを探しに行き、キロスがエルオーネをスコールの母の元へと帰した折――彼女は息を引き取った。行き場を無くしたエルオーネとスコールを、やむなく育てたのはキロスだった。
 たった二年――だがスコールにとって世界を形成する知識を吸収する時期に、ラグナは不在。そして、そのラグナの代わりにいたのがキロスだった。
 そして、ラグナが帰ってきたらキロスは家からいなくなり、それが幼いスコールを酷く混乱させたのだ。

「何を怒っているんだ?」

 黙りこくるスコールに、キロスが声をかける。

「別に」

「そうか」

 酷く冷たい印象を与える言葉に、キロスは苦笑した。そして、木に寄り掛かるのを止め、キロスはスコールを見上げる。

「君の自分の感情をなかなか表現できない所は、長所であり欠点だな。いつか、苦しくなるぞ」

 軽く木を叩いて、キロスは歩きだした。

「ラグナくんほど感情を出せとは言わないが、言葉にできるようになった方が良い。誤解されやすくなる」

 眉間にしわを寄せるスコールは、それでも一切の声を発さなかった。






 森の中の小さな池にのほとりで、膝を抱えていたスコールに声が掛る。

「また来たの? 懲りないねぇ」

 スコールが見上げると、黒髪に水色の服――以前会った魔女がそこにはいた。

「エルお姉ちゃんに会いに来た訳じゃない。だから、別に良いだろ」

 一瞥くれて、スコールは再び池の水面を見つめる。空を反射し、池はうっすら水色に光っていた。

「おや? ご機嫌斜めだね」

 声の調子が以前と違うのに気付いて、魔女は意外そうに目を丸める。
 そして、思い出したようにスコールは魔女を見た。

「アンタ、魔女なんだろ?」

「うん。そうだね」

「俺に魔法を教えろ」

「魔法を?」

「そうだ!」

 提案に、魔女は目を白黒させる。
 スコールはまだ十歳――子供だ。魔法は生活を助ける為の者もあるが、基本的には他の存在を傷つける為にある。それを何故こんな小さな子供が欲するのか――そんな疑問もあるが、それ以前の問題に気付いて魔女は首を振る。

「残念ながら、それはできないわ」

「どうして! 
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