そうして、チェル組の採点を終えて、アダムは司会を続行する。
「はい、では次は―――」
「アガレスたちでいいかしら」
即断の一声に、アダムは肩を竦めつつ視線を彼らへと見やった。
「すまないが、私たちは棄権する」
視線を受けた組らから、礼節柔和な態度を取るアガレスだけが立ち上がって冷淡な声色で、凄みのある威圧と共に言い放つ。
「え、ちょっとーー!?」
アダムの声と共に、他の者らも同様に驚きを隠せない。ただ一人、イリアドゥスは淡々とその視線と向き合い、問いかける。
「やはり、話せないかしら?」
「……これは我が身恋しさの為じゃあない。愛する妻たちの為だ」
そう答えた彼は冷徹な言動とは裏腹に苦汁を噛みしめた表情であった。傍にいるハゲンティ、フェミニアも何処か沈鬱である。
「仕方ねえさ。んなもん」
机に突っ伏していたチェルが密かな声でつぶやく。ウィシャスも静かに頷く。
二人はシンクらからアガレスとその妻たちの経緯を大まかにだが、知っている。
そして、その経緯の記憶をイリアドゥスは知っているはずだった。あえて、それを強いさせたのは神の悪戯と片づけるには悪辣だった。
「―――解りました。その棄権、了承します。―――そして、ごめんなさい」
イリアドゥスは了承をして、彼らに謝意の礼をとった。アガレスは安堵の息を零して、座った。
(もう、二度と繰り返したくもない)
安堵とは真逆の、苛むような不安が在った。
紛らわせるように二人を見やった。ハゲンティは涙を流しつつも、安心したようだった。
フェミニアは罪悪感のある表情だった。無理もなかったが。
アガレス・グシフォン、ハゲンティ・グシフォン、フェミニアの3人は異世界『ソロモニア』の生まれ育った。
ソロモニアは長く続いた戦乱から群雄割拠の時代だった。アガレスはその群雄割拠から立ち会った人物の一人で、最終的には統一を果たした。
その戦乱の中で、彼は妻であるハゲンティと出会い、共に戦い抜き、愛し合っていった。
その中で、フェミニアはそんな彼らの前に立ちふさがる敵として何度も敵対した。それは彼女の謎の不死性ゆえ、何度も戦った。
フェミニアの不死性の正体は他者の魂に自分という存在を刻み込むことで支配権を奪う事だった。
彼女はその都度、新たな体を手に入れては、戦いの中で失い、戦いの中で手に入れてきた。
だから、最後の戦いと呼べる決戦で、彼女を倒したとアガレスたちは油断していた。その影がすでに及んでいた事を気づかなかった。
世界を統一し、皇帝としてアガレスは平和な日々を過ごしていた。だが、いつからか、ハゲンティが病に伏すことが多くなった。
医者に診ても、明確な原因はわからず、妻は衰弱していった。
そして、アガレスにとって妻との最後の夜がやって来た。
「――ハゲンティ、大丈夫か」
毎夜、アガレスは彼女の寝室へと訪れ、様子を伺いに来た。
今夜もそう声をかけて、容体を見る。嘗ての清らかな容貌は影を落とし、衰えていた。
呼吸もか細く、苦しげにしている彼女を見るだけでこちらも苦しい気持ちで胸がいっぱいだった。
「……あ、なた」
虚ろげな眼差しでこちらに気づき、心配させないように健気に微笑みを向ける。
その健気さに一層、胸の苦しみが深まるが、あえて応じる様に微笑み返した。
すると、突然、妻が苦しみ悶える。
「―――ッ、うぅ…!!」
「どうした! だれ――」
突然の事態に戸惑うも、すぐに廊下にいるであろう衛兵らに呼びかけかけた―――瞬間、体に激痛が走った。
妻のか細い手から見覚えのある刃が抜き出て、自分の胸へと刺し貫いていた。
さらには寝室一体に異様の気配が走る。この気配は、間違いない―――まさか、
「………ふふふっ」
妻の声と重なる様に笑う別の女の声。間違いない、この声の主は。
「フェミニア……きさ、まぁ!!」
気づく間を与えず、刃は引き抜かれ、すかさずアガレスは途方もない膂力で突き飛ばされ壁に叩き込まれる。
それでも、妻―――否、宿敵へその名を吼えた。
「しぶといわねえ。…胸刺し貫いたんだけど……まあ、いいわ。ゆっくり甚振ろう」
宿敵フェミニアは妻の姿のまま、残虐に笑い、手の内から生えた血で染まった刃を舐める。
「お前は――死んだわけではなかったのか」
身を起こし、アガレスは問いかける。
その問いかけに、嗜虐の色を混ぜて応じる。
「あー、死ににいくついでに教えてやる。この不死身の正体をね…
我の力…他者の魂に自分を刻みつけることで支配することが出来るの、ハゲンティの躰も、今までの躰も、ね」
「……なぜ、私ではない。なぜ―――」
その真実を目の当たりになったアガレス
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