そうして、月華は美月と友達になった。
その後の彼女は美月のお蔭もあり、次第にもとの元気さを取り戻していった。
落ち込んでいた自分へ、温かい笑顔と抱擁をしてくる彼は嫌いにならなかった。うっとおしさも感じなかった。
そんな日々が過ぎたある日。
「元気になったね、月華。その性格が素だったかな?」
「もう。馬鹿にしないでよ!」
彼がレストランへ彼女を誘い、食事をしていた時の事だった。
愉快に話し合う二人に、いや、彼女にある人物たちが話しかけてきた。
「おう、月華じゃないか」
そう、神無だった。傍にはツヴァイが居る。
「―――」
月華は言葉を一瞬失い、あわてて応じる。
「神無? お久しぶりね」
「ああ、そうだったな。最近見かけなかったからな…心配したぞ。親御さんに聞いても「詳しくは言えない、元気だ」しか教えてもらえねえし」
「いろいろあってね…」
「……」
歯切れの悪い月華に怪訝を抱くも、冷徹な視線が静かに二人に向けられる。
その眼差しに気づいたのか、神無が問いかける。
「…何だよ、俺に何か?」
「君が神無か」
「ああ…?」
酷く冷徹な眼差しの主―――美月―――に、神無は小さく身構える。
剣呑とした雰囲気が漂い、誰も口出しできなかった。それほどまでに美月の威圧は凄まじいものだったのだ。
そうして、漸くといった感覚の末に美月は口を開く。
「はじめまして、私は美月と言います。実は月華さんとは結婚前提のお付き合いをしてまして。これからもよろしくお願いします」
綺麗な笑顔を浮かべながら、自己紹介され、神無は、いや、その場の一同はズッコける。
神無は苦笑いしつつ、その照会に応じる。
「お、おう。そんな仲だったか? 月華はいいやつだ。仲良くしてくれ」
「ええ。よく知ってますよ」
貼り付けた笑顔で応じ続ける彼に神無は仕方なく、この場を去ることを決意した。
このままだと、店に迷惑がかかる。急ぎ足でツヴァイを連れて去って行った。
それを手を振って見送る美月は、一息、ゆっくりと吐いた。
「―――――すまない、最初は責めるなと言ったのにも関わらず。
………気が付いたら、心の底から怒りが溢れてしまった」
申し訳なく言った彼は月華へと謝した。
月華と知り合う中で、美月も知らず神無らに対する怒りを募らせていたのだった。
そして、彼らを見た瞬間、爆発した。
彼女を傷つけた最低な男と、
彼女を絶望に沈めた下劣な女と。
「――しばらくの間はあの二人と逢わない方がいいな、私は」
呆れて困ったように美月は笑いながら言った。月華は黙って頷くしかなかった。
それでも、そんな風に想ってくれた事が心なしか嬉しかった。
そんな危うい日が過ぎ、二人の仲は親密になっていった。
どこまでも普通で愉快な事をして、普通に食事などをしていき、想いは募っていくばかりだった。
ある夜の事だ。美月が月華を呼びつけたのだった。
呼びつけられ、やって来た場所は例の場所―――そう、自分が一度は身を投げようとした建物の屋上―――だった。
引き返したくなりそうにながらも、足取りはゆっくりと確実に屋上へと上がっていく。
そして、屋上へたどり着いくと、そこには彼だけが待っていたように佇んでいる。。
「美月…どうして、此処なの?」
開口一番、問いただしたかったのはそれだった。
此処は今や、月華にとっては傷跡しかない場所だ。
美月は振り返り、彼女を見据えたまま、答えた。
「此処は、私たちが出会った場所。そして、『君が一度死んだ場所』だ」
「!」
「結果はどうあれ、君は此処で死んだも同じ。だが同時に、『新しい君が生まれた場所』にもなった」
「……」
滔々と語り続ける彼の言葉を遮れなかった。
そうして、彼は彼女の前に歩み寄る。
「私が出来る事は君と一緒に居て、笑いあったり、泣いたり、怒りあったり……まあ、君が幸せだと思える事をしていきたいな。
―――改めて、私と……付き合って欲しい。君と一緒に生きて、いきたいんだ」
彼が用意し、取り出した小さな箱には3つの指輪があった。一つはチェーンによるネックレスとなっていた。
不思議に想った彼女が聞きだす前に、彼はその指輪を彼女の首から提げる。
「この三つ目は『死んだ君』への、指輪だ。別に皮肉ではないからな嘗ての君も愛すると言う意味だ」
「…もう」
必死に言われては、こみ上げた感情も苦笑するしかなかった。
だからこそ、私を此処まで想ってくれる彼を受け止めれる。
「――大好きよ、美月」
受け取った想いを抱擁と返し、美月もしっかりと抱き返す。
それが二人の新しい、始まりになった。
「……お疲れ、月華」
「うん…」
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