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番外第二幕 その9


 鏡華が次に意識を取り戻したのは夜の闇から明ける頃だった。
 そこは崩壊した城の近くにある小さな湖の辺だった。しかし、幽閉されてきた彼女は何も知らない。
 風や、水の音、外の空気が、彼女にとっては全てが、何もかもが始めてのものだ。

「―――…………んっ」

 身を起こすも躰に痛みが走り、起き上がれず倒れこむ。
 気づくと霞んだ視界に、自分を斬った少年が傍に座り込んでいた。
 彼も気づいたのか、彼女に近づき、声をかける。

「目覚めたか。生きてるか?」

「……っ」

 鏡華は困惑と敵意の眼差しで返した。その眼差しに別段気にも留めず、彼は一応の説明をした。

「あそこでお前を斬ったのは、お前を覚醒させる為にやっただけだ。
 力の統御がされず、支配下においていないお前の技量、錬度の無さを呪っておけ」

「……」

『あはは…ほんと、悪いとは想ってるんだけどねー。あの状況は仕方なかったわけだから。
 ま、君は漸く―――外の世界を知ることが出来たってことでお相子で』

 無轟の言に、見かねたのか炎産霊神が現れ、彼女に謝すように言うも開き直る。
 外、と言う言葉に鏡華は反応して、再び身を起こそうとする。

「見えるか?」

 起き上がろうとした彼女を無轟が躰を支えた。彼の問いかけに、鏡華は視界に広がる光景を見つめて、漸く言葉をつむぐ。

「―――これが世界なのね…」

 この目に広がる光景も、何もかもがすばらしく尊いものだと想った。
 そうして、しばしの沈黙の後、無轟が口を開いた。

「鏡華。お前が望むなら俺と共に来ないか」

「え?」

 唐突な同行の誘いに思わず彼へと振り向いた。

「…此処はお前一人で生きていけるほど生易しい世界ではない。――お前次第だ」

 口走った彼は真面目な様子で説明する。
 鏡華は黙して思考を廻らせ、しかし、その無意味さを笑う。小さく笑みを零した彼女は彼へと顔を近づけ、

「なら、私はあなたと共に行くしかないわね」

「そうか。なら、今は少し休むんだな」

 強面の表情に穏やかさの色を宿った声で寝かし込む。
 彼が傍にいるお陰か、直ぐに眠気が襲い、ゆっくりと瞼を閉じて、再び眠りに落ちる。
 寝息を立てる彼女を見てから、炎産霊神が彼に言う。

『無轟も少しは眠ったら? ずーっと起きっ放しだったんだし。何かあったらすぐ起こすよ』

「ああ…そうするよ」

 そう応じる声に眠気は混じっており、彼はそのまま座った臨戦姿勢のまま眠りに着いた。
 炎産霊神は眠りに落ちた二人を見て、その後、微苦笑を零した。




 その後の3人の旅は1年もの間を経て、故郷の世界を巡る事にした。その間ずっと無轟が戦い続けた。
 しかし、この世界の閉塞感に憂いを感じて、ある日、一人の人物に出会った。
 『器師』伽藍。様々な世界を渡り歩く存在『旅人』と出会って、3人は『ソト』へと出る決意をする。
 彼の協力により、無轟の愛刀『明王・凛那』が造られ、様々な世界へと旅する事になった。

 更なる旅路の中で、無轟と鏡華は自然と惹かれ合うようになった。
 それは人の居ない幻想的な世界で、訪れた異分子たる彼らへ襲い掛かった火の粉を払うように激しい戦いが起きた。
 その戦いは退けたものの無轟は傷を負い、身を隠すように洞窟で休息をとることになる。

「―――……此処は人が着ていい場所ではないのだったな」

 傷を負いながらも、彼は静かに呟いた。新しい包帯で躰を巻き、少しの安息をかみ締めた。

『だからって熱烈な歓迎だったね』

 炎産霊神は相変わらず陽気に笑いつつ、その顔がまったく笑みすら浮かべていないことから険しさを抱いている様子だ。

「……傷、痛むの?」

「っ……問題ない。
 が……さっさと別の世界に移動すればいい話だが、また同じような世界だったらこんな躰だと返って面倒だ。少しの日にちだけ此処で休むとしよう」

「バレないかしら…」

 異端な存在である自分らにこの世界に安静の地などあるのだろうか。そんな不安な様子の彼女に無轟は諭すように言う。

「もし本当に排除するべき存在だったなら、こうして休めていない」

「ええ、そうね…」

 無轟の衰えない自信と覇気に鏡華は安堵して、頷き返す。
 安心した彼女の返事に、彼は微笑み返し、身を横にした。

「鏡華。俺は回復のために眠る。炎産霊神も居るが、何かあったら直ぐに呼んでくれ」

「わかったわ」

 そう言って無轟は眠りに着いた。傷を負いつつも、直ぐに眠ったあたりまだ癒えていないのだ。
 無視しながらも動き続けようとする彼に、鏡華は戸惑いながらも彼を見据える。
 彼はずっとそうだった。どんな世界でも、彼は戦う選択肢があるのならそれを敢えて選ぼうとする。
 そして、彼は何度も戦い抜き、生き抜き、傷つ
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