「いいいいいいいいいぁっはぁあああああああ!!やっぱりシャバの空気は美味いぜぇええええええっと!!」
――――紆余曲折を経て、海岸に飛び出した。
暗いわ速いわ道がわからないわでソラには何が起こったのか理解できなかったが、とにかく元いた建物を背後に置き去り、車はまっすぐ彼方に向かっていた。
ようやくソラは一息ついた。今日に限ったことではないが、いずれも不意打ちの連続だったのだ。戸惑わないわけがない。狼狽のひとつもしたくなる。
それさえ躊躇っていたのは展開のペースも理由だが――――隣の少年を気遣ったためでもある。
「なぁ、この車、どこに向かってるんだ?」
「この車ってなんやねん自分。僕はちゃーんとビビって名前、ありますねん」
「びび?」
「そ。ブリッツ・ビート。イナズマ的インパクトでビリビリ来るっていうイカしたネームやねん。わかるやろ?」
「お、おう……?」
「最近のチューニングはヒスイちゃんにしてもらって、もうイケイケやねん。このまま夜通しフルスロットルでいきましょか?」
「いや……ビビ、いったいどこに向かってるんだ?」
「んー。僕よりそこの彼のが詳しいんじゃないですか?なぁ、自分?」
ビビが話を振ったのはソラではなく、未だ少女を抱く少年だった。体からは依然として生気というか覇気というか、そうした活力は伺えない。
しかし、赤い涙をとめた彼の瞳は、赤々と輝いていた。
彼には明確な、そして強い意思が籠っている。
「悪いが記憶がない」
「はーん。んな風に大事にヒスイちゃん抱きしめちゃってのー。おたくアレやな?ヒスイちゃんの言うとったヤツやな?セキ・グレンってヤツやろ?」
「セキ・グレン……」
「かーっ!こないな胡散臭い鼻持ちならんやつにヒスイちゃん取られたかと思うと悲しいわー。あーまじムカつく。そのスカしたツラやめーや。叩き出すでホンマ」
「……そのヒスイちゃんが起きた時にその所業、話していいならな」
「あーあーすんませんすんません旦那様ご主人様お兄ちゃんマイマスター。僕は皆さんに忠実なアイテムクソ野郎さかい、そんな叩き出すとか逆らうとか轢き殺すとかするわけないやーん?ね?ねっ!?」
――――急にゴマをすりだした。
どうやらこのビビにとって、ヒスイからの信頼というには余程重要のようだ。
セキはやや冷ややかな視線をダッシュボードに向けている。口元が薄く笑っているのは、殺し文句を得たからか。
「じゃ、どこに向かっているのか教えてもらおうか」
「自動航行モードでーす。正面ガラスに地図映します」
途端にフロントガラスが発光した。大まかな周辺の図が現れる。赤い三角が自分たちなら――――目的地は青い丸で表現されているようだ。
「目的地はここから13キロくらいすわ。魔都ユグドラシル。中央に大木をくり抜いたタワーがある敵の根城です」
「敵……」
「待ってくれ!敵って!?さっきのハートレスを操ってたヤツか!?」
「あー、あの量のハートレスを『子機』使って操れんのは、この世界じゃあの人くらいでしょうなぁ」
「それが、敵……?」
「そ。ヒスイちゃんの敵。ハートレスの王。亡者の皇帝。【吸血鬼】ハザード」
「ハザード……」
呟くセキの顔は重い。
因縁を思い出しているのか?それとももっと単純に――――?
「ほうほう。まさしくもっと事情を知りたいって顔してまんね、にーちゃん。セキ・グレンじゃあない方の。なんやねん。んなことも知らんでここまで来たって」
「……この人は俺とヒスイちゃんの恩人だ。邪険に扱うと――――」
「なんやー。ほんならにいちゃんめっちゃええ人やーん。好き好き愛してるー。なんでも話しちゃうから今の放りだそうとした件はさらりと水に流してーなー」
「…………」
「……。その、なんだ。謝る。なんか悪い。ごめんなさい」
「いや……いいけど。それで――――」
「ああ、事情やな。そっちのセキ・グレンは既にしってるやろ?つまんない話聞かせる風になってすまんな」
「構わない。お前がどれだけ把握しているのか興味もある」
「ははー。ホントえっらそーに。ヒスイちゃん降ろしたらマジ見とけよワレ」
「お、ヒスイちゃん薄目開けた」
「んなわけないやーん!恩義あるヒスイちゃんの大事な大事なフレンドリレーションをブロークンするわけないやーん。ほら、ヒスイちゃんのおかげでキャビンイナーシャルキャンセラー完備やから0.1秒以内に静止状態からトップスピードまで引き上げたって中の人は健常でいられんねーん。もうミンチを体の中に入れるのは僕もいやです。精肉機なんかじゃありまへんし」
「――――本当に起きたのか?」
「嘘だ」
「だよなぁ……」
苦笑するソラにセキは片目をつむった。
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